障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2017年12月360号巻頭文

改めて、就学時健診を問う

~文科省が、就学時健診の実施方法を見直そうとしています~

障害児を普通学校へ・全国連絡会  運営委員会

8月2日付けの読売新聞に、「発達障害 就学前に発見」という見出しで、文科省が就学時 健康診断(以下、就健)の実施方法を見直すことを決めたという記事が載りました。就健の見 直しについては、昨年来、全国連で問題にしている「個別カルテ」との関わりで教育再生実行 会議の第9次提言の中で触れられていました。さらに、6月に出された第10別な支援を必要とする子供への就学前から学齢期、社会参加までの切れ目のない支援体制の整備等の取り組みをスピード感を持って進める」と書かれているので、その具体的な現れだと言えます。現時点で得ている情報としては、
①就学時健診の手引きを、10数年ぶりに改訂する。
②改訂の理由は、法改正があり、それを反映させる必要があるから。
③乳幼児健診との連携についてはすでに実施されている地域もあるので、平準化を図る。
④今年度末までにマニュアルを作り、再来年度の就学に間に合わせる。
⑤マニュアルなので、パブコメは求めない。
ということです。


【15年前に作られたマニュアルがそのまま使われていた】

「実施方法を見直す」と言っても、就健について記載されている「学校保健安全法」や同施 行令や同施行規則が変えられるのではなく、文部科学省の補助により財団法人日本学校保健会 が作っている「就学時の健康診断マニュアル」が改訂されるのです。ですから、パブコメもな いわけです。

このマニュアルですが、ネットでは中身を読むことができなかったので、電話で購入の希望 を言うと、「だいぶ古いもので、もうすぐ新しくなりますがいいですか?」と言われました。ど のように変わるのか、比べるためだと返事をして入手しました。

奥付には、「平成14年3月31日 初版発行」とあります。一部改定はあったようですが、特殊教育から特別支援教育になっても、障害者権利条約の批准に伴い、障害者基本法が改正され、学校教育法施行令が変わっても、現場ではこのマニュアルによって就健が実施されていたということになります。
マニュアルの最初に「趣意」が書かれていました。

前略)就学予定者の心身の状況を的確に把握し、義務教育諸学校へのはじめての就学に当たって、保健上必要な勧告、助言を行うとともに、適正な就学を図ることは、就学事務を行う市町村の教育委員会の任務であるべきであり、また一方、就学義務を負う保護者の義務でなければならないと考えられる。 就学時の健康診断の意図するところを要約すると次のとおりになる。
① 学校教育を受けるにあたり、児童生徒等の健康上の課題について保護者及び本人の認識と関心を深める。
② 疾病又は異常を有する就学予定者については、入学時までに必要な治療をし、あるいは生活規則を適正する等により、健康な状態もしくは就学が可能となる心身の状態で入学するように努める。
③「就学時の健康診断は、学校生活や日常生活に支障となるような疾病等の疑いのあるもの及び盲者、聾者、知的障害者、肢体不自由者、病弱者、その他心身の疾病及び異常の疑いのあるものをスクリーニングし、適切な治療勧告、保健上の助言及び就学指導等に結びつけるものであり、医学的な立場からの確定診断を行うものではない。
④これらのことを目的とし、義務教育の円滑な実施に資する。
とあります。就健が「保護者の義務でなければならないと考えられる」などと間違った法解釈が堂々と書かれています。

次に紹介するのは、10月に横浜市の保護者に届いた就健のお知らせの中の一文です。
「就学時の健診は学校生活や日常生活に支障となるような疾病等の疑いがないかをスクリーニングし、早期に発見して受診をおすすめするものです。医学的な立場からの確定診断を行うものではありません。」
さすがに保護者向けには露骨に、「障害を発見し就学指導に結びつけて適切な就学を図る」とは書いてありませんが、このマニュアルが使われているのがよくわかります。

【全国連の原点に立ち返って取り組んでいこう】

そもそも全国連では、就健の一番の目的は、障害のある子を普通学級から排除することにあるとしてそれ自体を一貫して反対し、受ける義務もなければ、強制されるものでもないと訴えてきました。各地で 就健を受けずに普通学級に就学する運動を積み重ねてきました。法改正を反映させるのであれば、批准した障害者権利条約のインクルーシブの理念に従って就健は廃止されてしかるべきです。

しかし、そうはしたくないのでしょう。文科省の言う法改正の反映とはインクルーシブ教育システムの構築です。早期発見・早期対応の仕組みづくりを確実にし、その情報を就健に反映させて、発達障害と言われる子どもたちを新たな排除の対象にしようとしているのです。勿論、「排除」などと言う言葉はどこにも出てこず、「多様な個性への適切な支援」と言っていますが、これまで就健が果たしてきた役割を考えれば、新たな・巧みな分離です。

旧態依然としたマニュアルをずって使っていたのは、法改正がされても原則分離の考えを変えないからではないでしょうか。変えるべきは、文科省の考え方です。就健への取り組みは全国連の原点です。文科省に働きかけていきますので、全国各地域での取り組みやご意見を事務局に届けてください。本当の意味で条約や法改正を反映させていきましょう。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

巻頭改めて、就学時健診を問う~文科省が、就学時健診の実施方法を見直そうとしています~ /今いるところをいいところに。それが幸せへの近道就学相談会で出会った言葉 ~転籍までの思い~ /●相模原障害者施設殺傷事件を問い続ける 「やまゆり」からいのちを問い続ける 横浜フォーラムを開始しました‥/書評  平本 歩著 「バクバクっ子の在宅記~人工呼吸器をつけて保育園から自立生活へ」/毛利子来さんをしのぶ/涼さんに聞きました/●相談からコーナー子どもが教室に入れない!/運営委員会こぼれ話 その15/各地の集会案内/ご参加 ありがとうございました/事務局から/事務局カレンダー