障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2016年7・8月346号巻頭文

障害者支援施設で起きた殺傷事件に対する緊急声明

障害児を普通学校へ・全国連絡会 運営委員会

私たち「障害児を普通学校へ・全国連絡会」は、1981年に設立されました。障害の有無にかかわらずどの子も地域の普通学校で共に生き共に育つこと(共生共育)を求めて、全国の多くの障害のある人、保護者、教員、研究者、福祉関係者などと共に運動を展開しています。

神奈川県の障害者支援施設「津久井やまゆり園」の殺傷事件で、抵抗するすべもなく突然命を絶たれた19人、重傷を負わされた26人の障害のある方々の恐怖と無念さを思うと、怒りでいっぱいになります。

障害のある人たちだけを殺傷し自ら警察に出頭した26歳の男性容疑者は、ゆがんだ使命感を持って犯行に及びました。それは、障害のある人を「あってはならない存在」とする優生思想です。私たちは、その言葉をマスコミが報道するたびに恐怖と怒りが込み上げてきています。

日本社会には、血液による出生前遺伝子検査で陽性とされた胎児の94%が中絶されているという現実があります。かつて石原都知事は障害のある人の人格を否定するような発言をしましたが、4度も当選を続けました。去年の11月には、茨城県の教育委員が障害者を教育しても仕方ない、生まれてこない方が良いという趣旨の差別発言を批判され辞任しました。他方では公然と在日中国人・朝鮮人へのヘイトデモが繰り返されています。欧米では犯罪とされる人種差別行為が大手を振ってまかり通っているのです。今回の犯行でもネットでは「よくやった」と同調する声が多数寄せられています。この事件は容疑者一人の問題ではなく、日本社会の意識が表面化したものと言えます。

今回の事件で注目されるのは、容疑者がこの施設の元職員であることです。この施設に重度な障害のある人が150人も暮らしています。24時間介助や医療的ケアが必要な方が多く、家庭や地域社会で受けとめきれず、遠くの施設へ入所しなければならない状況こそが問題です。

このような状況を変えるには、地域社会の中で重度な障害のある人や高齢者が生きていける社会システムを作っていく必要があります。それには、共生共育の中で醸成される共生感覚をベースとして、人間関係を築いていくことが求められます。人間の他者への想像力は、「弱者に優しくしよう」とか「誰でも高齢者になる」という建前論では決して育てられないからです。

ところが日本では、視覚障害、聴覚障害以外の障害のある子どもに対する教育は、戦前はほとんど放棄されていました。戦後になると肢体障害、知的障害のある子の教育も少しずつ取り組まれてきましたが、「特殊教育」と呼ばれ、分離を原則としたものでした。普通学級では障害のある子に「じゅうぶんな指導ができない」というだけではなく、「学級内で大多数を占める心身に異常のない児童・生徒の教育そのものが、大きな障害を受けずにはいられません(「我が国の特殊教育」文部省1961年)」という、きわめて露骨な排除の考えにもとづいていました。そして、「特殊教育」を「特別支援教育」と看板を書き変え、障害者権利条約の謳う「インクルーシブ教育」を「インクルーシブ教育システム」と偽っている現在でも、この考え方は変わっていません。

この教育政策では、多くの障害のある子は日頃別の場所に追いやられ、また、同じ場所に居ても、特別扱いをされ、健常者にとって助けるべき「気の毒」で「異質な」存在であり、同情や哀れみの対象とされてしまいます。これでは「本来あってはならない存在」と優生思想に短絡していく危険性を常にはらむことになります。

教育の中で他者との共生感覚を自然に学ぶ、そういう教育にならなければ、重度な障害のある人だけでなく、何らかの障害や難病などのある人、高齢者や失業者など多くの人が孤独と放置の中で人生を終えさせられる社会にますますなっていくでしょう。

障害児を普通学校へ・全国連絡会は、これまでの私たちの取組の不十分さも今回のような事件の発生を許してしまったととらえ直し、優生思想を打ち破り共生感覚を育てる共生共育(インクルーシブ教育)の実現をめざす、より力強い活動が必要だと考えています。

また、この殺傷事件の前に、容疑者が障害のある人への暴言によって措置入院させられていたという経緯があり、それが悪用されて精神に障害のある人への偏見、管理や隔離を拡大することに利用されないか、大きな危惧を抱いています。

さらに、普通には公表される被害者の氏名が、この事件に関しては公表されないことに大きな疑問があります。報道では被害者の家族からの要望で、とされています。家族それぞれに事情があり、そうせざるをえないことが、日本社会の障害者差別の表れともいえます。亡くなられた19人の方々を「障害者」と一括りにすることは、この方たちの一人ひとりの人生を打ち消すことに等しいのではないでしょうか。

最後に、今回の事件の全ての犠牲者のご冥福とお怪我をされた方々の速やかなご快復を願って、障害児を普通学校へ・全国連絡会運営委員会の声明といたします。

※「津久井やまゆり園」の殺傷事件を受けて、緊急に運営委員会から声明を出しました。今判明している段階での声明ですので、なお広く意見を出していただき、全国連絡会としての見解をまとめていけたら、と考えています。(事務局)

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 障害者支援施設で起きた殺傷事件に対する緊急声明/プロジェクト19 —相模原メモリアルのお誘い」/第12回「障害児」の高校進学を実現する全国交流集会分科会レポート 第1分科会 第2分科会 第3分科会 第4分科会/全国連絡会世話人 永六輔さんを偲ぶ/「ストップ!個別カルテ 共生共育計画をつくろう!」学習会報告/普通学校もあかんねん その19/運営委員会こぼれ話 その4/─6月の「障害児の普通学級就学相談ホットライン」から─障害があったら特別な所へいくものだと思わせられてしまっている!!/●相談からコーナー やりきれない宿題はどうしたらよいでしょうか/事務局から/事務局カレンダー