障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2016年11月349号巻頭文

ストップ!個別カルテ  個別の教育支援計画・個別の指導計画を共生・共育計画に

東京都・運営委員  高木千恵子

障害者差別解消法が施行されたばかりのこの五月に〈文科省が障害のある子に「個別カルテ」をつくるよう各校に義務付ける方針を固めた〉こんな報道がされました。全国連では、この個別カルテを提言した教育再生実行会議第9次提言を「適切な支援の名の下でどの子も分離・別学の対象となる」と捉え、全国連の求める「共に生きる社会は、共に学ぶ学校から生まれる」を阻むものと考えました。会員からも多くの批判の声が届きました。そこで七月に学習会を設け、十月には反対集会を持ちました。そして個別カルテの問題点を明らかにし、「個別カルテ作成義務付けの撤回」の声明を出し、文科省に要請文を出して交渉の場を設けるように要請しております。

個別カルテに変わる個別の教育支援計画・個別の指導計画

こうした状況の中、文科省から「次期習指導要領に向けたこれまでの審議のまとめ」が出されました。学習指導要領で個別カルテを義務付けるとされていたので、注目しました。文科省も「カルテ」は使えなかったのでしょうか。「審議のまとめ」の中には、個別カルテは使われておりませんでした。しかし〈個別の教育支援計画、個別の指導計画を特別支援学級や通級の子ども達全員に作成することが適当である。通常学級では、望まれる〉となっていました。現行の指導要領では〈作成することなどが考えられる〉ですので、より強い表現になっています。「個別のカルテ」でなく、「個別の教育支援計画」と「個別の指導計画」の作成を徹底することで、九次提言の意図を盛り込んでいるのです。

「個別の支援計画」とは、一九七〇年代にアメリカの「全障害児教育法」で提起され、共に学ぶことを可能な限り保障しようとしたものです。日本では、一九九三年に障害者の自立と社会参加の支援を目的とした障害者基本法〈後に改正〉に基づく障害者基本計画の中に位置付けられました。そして一九九九年、特別支援学校において作成が義務化となりました。小・中学校では、義務化ではありませんが、二〇〇三年の特別支援教育体制の時から取り入れられました。

東京都は、特別支援教育体制の先取りとしてモデル事業を実施し、学校の中に①特別支援教育校内委員会②コーディネータ③特別支援教室④巡回指導⑤就学支援シート⑥個別支援計画⑥副籍制度などが導入されました。しかし校内委員会もコーディネータも就学支援シートも、特別支援対象児を見つけ出し、特別支援教育を勧めるためのものとなりました。個別の支援計画も、普通学級で共に学ぶための指導や支援を考えるものとはならなかったのです。当時私はモデル事業を受けた調布市に勤務し、クラスの中に障害児がいましたので、個別支援計画の作成について無言の圧力を感じました。特別支援教育体制は、特別支援対象児を選び出す制度を教育委員会と学校の中に組織化することでした。相談は選別のための窓口であり、支援は分けられた場でされるものとなりました。

更に「個別の教育支援計画」や「個別の指導計画」には、個別カルテと同様に障害を医学モデルとしている問題があります。医学モデルとは、障害は病気や外傷等から生じる個人の問題とし、障害の克服に向けた訓練や治療が考えられています。障害者権利条約では、障害を「社会モデル」とし、社会的障壁の除去を課題としています。条約を批准した現在では、医学モデルでなく社会モデルに基づく支援や指導が求められます。

共生・共育計画を

障害者権利条約の基本理念は、障害のある子もない子も共に学ぶインクルーシブ教育です。ところ文科省は「インクルーシブ教育システム」として、障害のある子とない子を分ける特別支援教育を推進しています。インクルーシブ教育の意味を歪曲しているのです。文科省の資料によると、小・中学校の子ども達の数は減少しているのに、特別支援学校の子どもは増加しています。これは、障害のある子が増えているのでなく、特別支援教育の推進により障害のある子を増やしているからです。

ストップ個別カルテと同様に、「個別の指導計画」や「個別の教育支援計画」もストップです。これらを障害者権利条約や障害者差別禁止法に基づくものに変えていかねばなりません。それが共生・共育計画です。学校への付き添いをはじめ合理的配慮の在り方、施設設備のバリアフリー化、教材教具の工夫、支援員や看護師などの人的配置、どの子も共に学ぶための指導法や学習形態の検討、差別解消に向けての人権教育等々を考え、計画を立てることです。分けてからの支援でなく共にいるための支援であるべきです。 共生・共育計画が地域の学校で実施できるようになると、普通学級で学ぶ障害児が増えてくるはずです。共に生きる社会が近づいてくるはずです。

特別支援教育の場では、障害者権利条約が批准されてからも、少しも変わらない教育内容です。特別支援学校や学級の参観をするたびに思うのですが、かつて私が養護学校の教員あった四十数年前と同じようなものでした。

個人的な感想

今回は実験的なことを取り入れました。今回の経験を、来年熊本学園会場で開かれる全国交流集会in熊本、その次の年の高校交流集会in○○に引き継げるよう、各種データを整理していくつもりです。

ところで、あるときふと気付きました。実行委員会事務局メンバーの50歳台は若手なんだ、60歳以下が例外だと。この線で考えると、交流会も寄る年波の方が多く食事量が落ちてきている? あっという間に食事がなくなるエネルギーが減っている?

なお、参加費を決めるに当たって、高校生以下無料としました。家族連れの場合いろんな形で参加費が膨らみます。それにしても毎回子どもの参加が少ないと感じています。確かに子どもにとってやさしくない集会ですが、走り回ったりする姿がなく、絶妙の合いの手が入ったりする声が聴けないのは寂しい限りです。

ストップ!個別カルテ

個別の教育支援計画・個別の指導計画を共生・共育計画に。
インクルーシブ教育の推進を求めていきましょう。
12月2日の文部科学省交渉に ご参加ください。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

巻頭 ストップ! 個別カルテ―個別の教育支援計画・個別の指導計画を共生・共育計画に / ストップ! 個別カルテ 一〇・二集会から 分類することの権力性・差別性 / 都立高校再編に係わる諸課題から「特別支援校との連携」 / 相模原障害者施設殺傷事件を問い続ける 地域に居ること / 雑居まつり報告 / 相談からコーナー『運動会に出たくないと子どもが言うのですが / 青野洸夢さん、高校進学実現に向けての署名をお願いします / 今年2回目の全国一斉ホットライン実施 / 徳田さん、おめでとう / 事務局から / 事務局カレンダー