障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2015年12号 340号巻頭文

ゆるせない「障ハラ」

東京都・運営委員  片桐健司

私は、全国連絡会で相談担当をしています。メールや電話で全国連に来る相談には、話を聞いただけで胸の痛くなるような相談が数多くあります。普通学級、支援学級にかかわらず、相談のほとんどが、そういった辛い相談であると言っても言い過ぎではありません。

このところ、支援学級からの相談も多くあります。支援学級は「個別でていねいな教育がされるところです」という就学相談でよくされる話からすれば、支援学級の先生はきっと障害児の味方ではないかと感じてしまうのですが、相談内容からみると決してそんなことはありません。最近は特に支援学級から支援学校への追い出し圧力が強くなっていて、
「子どもを支援学級においておくのは、親の虐待だ」
「支援学校に行かないから、子どもが大変なことになっている」
「支援学校に行くべき子が支援学級にいる。そういう子を宿泊行事に連れていくのは責任がもてないので、移動教室には連れていかない」
「子どもを支援学級においていいのか。ここにいるのは(教育効果があがらないのは)親の責任だ」
等々、自らやるべきことをせず、うまくいかないことは子どもの「障害」のせいにして、親を責め立てる学校、教員たち。その言動には、目にあまるものがあります。

普通学級についても、これは養護学校義務化(1979年)以後ずっと続いているわけですが、毎日のように、あるいは学期に1回とか年に1回とか、親を呼び出して、あるときは、連絡帳で、またあるときは電話で、
「ここにいても時間のむだだ」「子どもがかわいそうだ」「いじめにあっても知らないぞ」「私(担任)はなにもできない(しない)」「親のわがままだ」「親のみえだ」
「教室に子どもを見に来てごらんなさい」等々、言われ続けます。

付き添いについても、相変わらず要求されることが多く、これも心痛みます。

子どもに「障害」があると、親はどこか気がひけて学校に対しても遠慮しがちになります。学校から何かを言われるとその通りにしなければ申し訳ないような気持ちにさせられる人も多いと思います。だから、「付き添いをお願いします」などと言われると、そうしないと学校に入れてもらえないような気持ちになったり、子どもが学校でひどい目にあうのではないかと心配になったりして、「はい、わかりました」と答えてしまう人も多いのでしょう。

これは、最近受けた相談ですが、毎日付き添いをさせられている親がその日は体調が悪く、「今日は付き添えません」と学校に連絡したら、管理職が「それなら子どもを休ませてください」と言ったそうです。そのきつい言い方に、親はその場で立ち上がれなくなったということです。

こういった発言の裏にあるのは、障害者(児)に対する差別意識です。

学校(社会)は一方で、「弱い立場の人を大切に」「困っている人を助けよう」と言っています。マスコミや行政も、様々なテレビ番組、イベントなどであたかも障害者が現代社会では大切にされているようなイメージを醸し出しています。

しかし、学校教育の現場では、障害者が「分相応」にしていれば、「大切」にされても、普通学級に入りたいとか、学校内で当たり前に他の子と同じように学習させてほしいと主張すると、とたんに、「それはゆるせない」という意識が生まれ、障害児は親に面倒を見させるべき、とか、普通学級に入りたいなら親もリスクを負え、とばかりに上からものを言いだす教員たちが出てきます。「障害」児(の親)の分際で何を言うのか、という意識がそこにはあります。これこそが差別です。

校長、教頭、教育相談担当教員、養護教員等々、それに教委まで加わった多勢が、一人の親に対してする「話し合い」は、とても対等と言えるものではありません。

ひどい対応を受けた親たち、先に例をあげたあのような発言を受けた親たちの多くは、精神的なショックを受け、「学校に行けない」「校長の顔を見るのも苦痛」「体調を崩す」などの心的傷害を負い、不安定状態に追い込まれています。そして本当は相手が悪いのにあたかも自分が悪いような気持ちにさせられ、何かあると自分が子どもを普通学級(支援学級)に入れさせているせいだと、自分を責めていきます。

これらの状況は、明らかにハラスメントです。

最近は、女性の容姿についてのひとことでもハラスメントとして注意が喚起され、教委もそういう通知を各学校に出しているのに、これだけ親や子を傷つける「障害」児に対するハラスメントについては、何も触れられていません。セクハラ、パワハラ、マタハラ、オワハラ・・・、ハラスメントはいまや30種類もあるとどこかに書いてありましたが、「障害者ハラスメント」という言葉はありませんでした。「障ハラ」がハラスメントにならないことが、差別の現実なのかと思います。「障害」者には何を言ってもいいという考えがまだ多くの人の間にあるということなのです。

このような「障害」児(者)ハラスメントを私たちはゆるすわけにはいきません。遠慮せず、引き下がらず、そのおかしさを指摘していきましょう。おかしいと思われる発言はしっかりメモして全国連絡会にもお知らせください。「障ハラ」をゆるさない社会を目指しましょう。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 ゆるせない「障ハラ」/茨城県教育委員会委員の障害者差別発言に対する抗議/第17回全国交流集会・分科会報告/第4分科会「地域で生きる」/第5分科会「障害者差別解消法をどう使うか」/●「多様な教育機会確保法案」について多様な分断方による一元支配/普通学校もあかんねん その13/文科省の保護者付添い事態調査 大阪府の情報開示を請求して/激写の再現―『康ちゃんの空』復刻 ―/2015全国一斉障害児の普通学級就学相談ホットラインを実施して/分科会レポート募集中です 「第12回「障害児」の高校進学を実現する全国交流集会inおおさか」/●相談からコーナー 通知表の評定欄に何も書いてないのですが/事務局から/事務局カレンダー