障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2014年7月号 326号巻頭文
[報告]『就学指導の手引き』に関する
教育委員会による改訂状況
参議院議員 神本美恵子
1.今回の取組にいたる経過
2014年2月頃に「怒っているぞ!」という内容の情報が寄せられた。西の方のある自治体に住む保護者からだった。
- 学校教育法施行令が改正されたことについて、県教委から市教委に対する説明がおかしい。これまでと何も変わらないという説明があった。
- 施行令が改正され、県の「就学指導の手引き」が改訂されたが、その内容が酷い。
実際に改訂された『手引き』を入手したところ、「この理念(インクルーシブ教育システム)が一面的に提えられる傾向にあり、どこで教育を行うかという教育の場の論議が先行した状況が見られました」とある。改訂作業には多くの労力を要したであろうし、施行令改正の動きをいち早く『手引き』に反映させようとする前向きな取組に敬意を示したいところではあるが、どうしてこのような文言を冒頭に掲げなければならいのか理解に苦しむばかりであった。
そこで、早速この問題を3月13日の内閣委員会で取り上げることにした。この日は、この問題以外にも委員会で取り上げなければならないものが山積していたため、『手引き』の改訂作業状況に焦点を絞ることにした。
神本: 障害者権利条約に基づく国内法整備として、この度の学校教育法施行令改正が行われた。しかし、教育委員会によっては、「これまでと何も変わらない」という説明をしているとも聞く。この点について、実態をどのように把握しているのか。
また、この度の学校教育法施行令改正を踏まえるならば、これまで使用していた就学指導の手引きを改正すべきだが、実際に改正作業を行った教育委員会はいくつあるのか。文部科学省として、実態把握をしているか。
文部科学大臣政務官: ある県では、『手引き』を改訂したが、本人が望まなくとも特別支援学校への就学を検討するという記述があったりするのは問題であると聞いている。現在のところ、各都道府県の改定状況等について、現在網羅的な調査は文部科学省としては行っていない。
文部科学省は、施行令改正を受けた『手引き』の改訂状況については、調査していないということであった。
2.改訂された『就学指導の手引き』について
内閣委員会での答弁を受け、都道府県及び政令指定都市の教育委員会に対して、2013年度の就学指導の際に使用した『就学指導の手引き』を送付いただけないか依頼することにした。その際に、学校教育法施行令の改正を受けて改訂している場合は、その旨をお知らせいただきたいことと、新旧の『手引き』を送付くださるようにお願いした。
新学期が始まり忙しい時期の依頼になってしまったが、回答期限を4月中にさせていただき、50箇所の教育委員会から返信があった。回収率は、74・63%である。調査に御協力くださった教育委員会には、感謝したい。
(1)改訂作業の状況
改訂作業については、既に済んでいる教育委員会と今年度作業を予定している教育委員会が、32%と34%であり、ほぼ同数だった。興味深い回答としては、「政令改正に関しては、就学相談の手順や手続きについて、既に実施している内容であると考えております」というものがあり、同趣旨の回答が4つの教育委員会から届いた。
このことは、旧施行令については運用にあたって既に齟齬が生じていたことを教育委員会自身が認めていたこと、さらに施行令を逸脱した運用が行われていたと理解することができる。作業状況については、図1を御覧いただきたい。また、私自身のウエブサイトでも資料を公開しているので、そちらからも御覧いただきたいと思う。(http://www.kamimoto-mieko.net)
(2)6つの教育委員会が採用した文言とは?
文部科学省が作成した『教育支援資料』には、次のような記載がある。
インクルーシブ教育システム構築のためには、可能な限り障害のある子どもとない子どもが共に教育を受けられるよう配慮することが大切になります。その場合には、それぞれの子どもが授業内容が分かり、学習活動に参加している実感や達成感をもちながら、充実した時間を過ごしつつ、生きる力を身に付けていけるかどうかが最も本質的な視点となります。(『教育支援資料』2頁 傍線は筆者による)
『手引き』の「就学先の決定の基本的な考え方」に、この文言をそのまま掲げている教育委員会が6箇所あることが分かった。この文言は、読み方によっては学習内容が分かり、学習活動に参加できることが共に教育を受けるための条件になるとも読み取れる。それでは、旧施行令が規定していた障害の種類と程度で就学先を分けることと何ら変わらないことになってしまう。改訂された『手引き』の基本的な考え方には、改正を受けて新たな理念が掲げられなければならない。そこで、この意味することを確認する必要があると考えた。
(3)決算委員会(5月26日)での文部科学大臣の答弁
早速、文部科学省としての見解を確認するために、5月26日の決算委員会で質問することにした。
神本: 独自で調査を行い、『手引き』について改訂状況を確認した。この結果について、どのように考えるのか。
文部科学大臣: 改正の趣旨については、各自治体に対する通知や行政説明会により周知をし、詳細な解説資料として『教育支援資料』を全ての都道府県・市町村教育委員会に配付し、その周知徹底を図っている。手引書自体は改訂していないが、自治体においても新制度の理念等を踏まえた対応がなされているものと考える。
神本: 『教育支援資料』の文言をそのまま使っている6つの自治体がある。子どもが授業内容が分かり、学習活動に参加している実感や達成感を持つということは、それが可能になるような環境整備をし、教育内容を工夫することが求められることになるが、その責務は誰にあるのか。
文部科学大臣: 授業内容が分かるという意味での前提条件としての環境整備等、これは教育委員会や学校が更に努力するということが前提になる。文部科学省としては、引き続き障害のある児童生徒の教育環境の充実にしつかり取り組んでまいりたい。
私自身の教員として働いた経験から考えても、授業が分からない責任を一方的に子どもの側に押し付けるべきではないと思っている。特に、知的障害をもつ子どもには様々な工夫や配慮が必要な場合があり、その工夫や配慮をせずに、「障害があるから、分からない・参加できない」と、教師の工夫や配慮不足を棚に上げて排除することも可能である。「分かる」ことを誰がどのように判断するのか、慎重に判断すべきであると思っている。
この度の大臣の答弁は、教育内容を工夫する等の環境整備の責務は、教育委員会と学校にあるというものであったので、基本的な姿勢では一致していると思っている。つまり、分からない・参加できない子どもは、別室や別の学校へという答弁ではなかったので少しばかり安堵した。
3.どのような課題が浮かびかがってきたのか
冒頭に紹介した『手引き』を作成した教育委員会に対しては、文言を巡って市民団体との話し合いが継続されていると聞いている。この自治体では、昨年度の就学指導において、障害者本人が希望していない学校が就学先になるかもしれないと、教育委員会との間で根気強い話し合いが行われたと聞いている。障害者本人及び保護者が地域の学校で学びたいという意思を表明している場合には、それが就学手続きにおいて担保されるように、今後、実りある話し合いが行われることを期待したい。
『手引き』の改訂状況を調査した結果、今年改訂すると回答してきた教育委員会は34%であった。改訂作業がどのように進められていくのか、今後も注目したいと思う。
この度の調査を通じて、地域の教育委員会での障害をもつ子どもに対する対応を少しばかり垣間見ることができたように思っている。『手引き』の編集の仕方や記載の内容を見ると、全国さまざまな実態が浮かび上がってくる。地域の特色というべきかも知れないが、格差が広がっているのかもしれないという懸念を払拭することはできないと思っている。
今後も、地域の学校で障害があってもそうでなくとも、共に学ぶことが当然なこととして、インクルーシブ教育制度として確立するように、奮闘させていただきたいと考えている。
他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。
障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2014年7月326号目次 |
・巻頭[報告]『就学指導の手引き』に関する教育委員会による改訂状況 |
・9/20・21「第11回「障害児」の高校進学を実現する全国交流集会in北海道」へご参加を!『私の伝えたいこと』 |
・インクルーシブ教育データバンク(略称、インクルDB)はじめました |
・つきそいなくそうNEWS vol.1 |
・すでに消えているようなものだが、本当に消える「宮城県障害児教育将来構想」 |
・シリーズ憲法改悪 それでも理想を捨ててはいけない~憲法下でのハンセン病隔離政策 |
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