障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年9月 318号巻頭文

差別解消法を跳躍台にインクルーシブ社会への取り組みを

DPI(障害者インターナショナル)日本会議  尾上浩二

 今年6月に開催されたDPI日本会議・全国大会で、障害者差別解消法の成立を求める緊急アピールを採択した。「国会会期末まで残すところわずか」というタイミングだった。

 そのアピールには、「DPI日本会議は、1990年のADA成立直後、アメリカの仲間と連絡を取りADAをテーマにした学習・討論集会をいち早く開催した。以来、わが国での障害者差別禁止法の制定を目指して、交通バリアフリーや欠格条項見直しの取り組みを進めるとともに、障害者政策研究実行委員会として差別禁止法要綱案をまとめ提言してきた。障害者差別禁止法制定は、私たちの20年以上の悲願である」とある。

 あと一週間遅ければ審議未了で廃案になっていたかもしれない、ギリギリのところで日の目をみたのが差別解消法だ。

障害者権利条約・基本法と差別解消法

 1993年の障害者基本法制定時に、私たちDPIは権利規定・差別禁止規定の明記を求め多くの賛同団体とともに共同要望を行い、法制局も同席した議員勉強会等にも参加した。当時、法制局は、「要望としては分かるが、差別禁止は日本の法体系には馴染まない」とけんもほろろの対応だった。

 それから文字通り20年経って、ようやく差別解消法が成立したのだ。国連での障害者権利条約制定と、その批准に向けた制度改革の動き無しにはあり得なかったとあらためて思う。特に、2011年の改正障害者基本法は、差別解消法の大元である。改正・基本法の第1条には「障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会(インクルーシブ社会)の実現」が掲げられ、そのために、「地域での共生」を原則とし、第4条で、「合理的配慮の不提供を含む差別の禁止」が明記された。これらを具体化する個別法が、差別解消法ということになる。

 一時は「現行法で対応」との報道もあり、成立どころか法案提出すら危ぶまれていた。そこから成立まで持ち込めたのは、「権利条約批准に不可欠な法律」との認識が主立った障害者団体間で共有され、また、会派を超えた議員の尽力があったからだ。

 差別解消法は、周知の通り、「差別的取り扱い」と、「合理的配慮の不提供」を禁止している。特に、インクルーシブ教育の実現という点からは、「差別的取り扱いの禁止」に加えて、公立学校での「合理的配慮の提供」も義務づけ(国会や、筆者も参加している障害者政策委員会での答弁で確認済)となっている点は、しっかりと活用していきたい。

基本方針・ガイドライン、地域協議会・自治体条例づくり

 一方で、差別の定義や紛争解決の仕組み、民間事業者への法的義務づけ等は、今後の見直し課題となっている。

 まず、基本方針(政府全体)並びにガイドライン(各省庁ごと)を作成することになっているが、その際、事例収集=現実の差別実態を反映させていく働きかけが不可欠だ。

 その上で、やはり、大きなポイントとなるのが「紛争解決の仕組み」だ。

 いうまでもなく、差別は受けた本人からするととても辛く、また日々に関わることでもあるので、早急な解決(救済)が求められる。私自身の体験をふりかえっても、施設内学級の小学部から地域の中学校へ進む時に、「設備を求めない、先生の手、友人の手は借りない」との念書を書くことを条件にようやく入学が認められた。合理的配慮どころか、「普通学校に入った限りは学校側は何もしない」という対応だった。しかし、当時、どこにも相談できるところは無かった。

 差別解消法では、「合理的配慮の不提供」は禁止されることになる。ただ、本人や保護者が求める内容と、学校側の対応が一致しない場合は十分考えられる。そうした時に、早急な解決に向けて、相談・調整や、あっせん・助言してくれるところが必要だ。

 差別解消法では、「障害者差別解消支援地域協議会」の規定がある。しかし、あくまで、「地域協議会をつくることができる」規定で必置にはなっていない。各地で設置に向けた働きかけが必要だ。

 さらには、自治体で差別禁止条例を制定して、それに基づいた「紛争解決のための斡旋・助言のための機関や委員会」を設置することも考えられる。ちなみに、差別解消法の成立に当たって採択された附帯決議には、「本法が、地方公共団体による、いわゆる上乗せ・横出し条例を含む障害を理由とする差別に関する条例の制定等を妨げ又は拘束するものではないことを周知すること」と、条例による「上乗せ・横出し」が可能であることが明確に記されている。

 長年の運動の末、ようやく成立したという意味では差別解消法は一つのゴールである。しかし、それは、次の闘いに向けての新しいスタートでもある。障害者制度改革の第2ラウンドともいっていい。

 冒頭に紹介した、DPI全国大会アピールには、「長年、障害者差別禁止法を求めてきた私たちは、…、同法を徹底的に活用し、施行後早期の見直しにつながる取り組みを続けていく決意である」としている。

 差別解消法は、基本方針・ガイドラインを作成した上で、2016年度から施行、その3年後=2019年度に見直すことになっている。向こう5〜6年かけて、差別解消法を使いこなすとともに、見直しにつながるような取り組みをどうつくっていけるかが、私たち障害者運動にとっても大きな課題である。

 「インクルーシブ社会の実現はインクルーシブ教育から」という。差別解消法を新たな跳躍台として、「障害の有無によって分け隔てられることのない共生社会」=インクルーシブ社会の実現に向けた取り組みを押し進めていきたい。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年9月318号目次
・巻頭 
  差別解消法を跳躍台にインクルーシブ社会への取り組みを
・「各教育委員会に分離の判断の下駄を預けた?!—学校教育法施行令が「改正」されました
・会報のバックナンバーセット(1~300号)販売のお知らせ
・分科会当日レポートの書き方と名刺広告のお願い
・第16回全国交流集会・分科会発題要旨
・シリーズ憲法改悪4 参議院憲法審査会 報告
・小さな一歩だが、あきらめないで―「養護学校はあかんねん!」世田谷上映会
・全国連・初の連載小説! 第12回『ただやみくもな、わけではない』
・書評
・「相談から」コーナー このまま普通学級でやっていけるのでしょうか?
・各地の取り組み
・事務局から
・事務局カレンダー 9月・10月・11月