障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年7月 316号巻頭文
「新型出生前診断」 検査対象のひとつに指名された当事者家族の立場から
「指針」の遵守と、出生前検査診断について更なる論議を
日本ダウン症協会広島支部「えんぜるふぃっしゅ」 石黒敬子
4月から新型出生前診断の臨床研究として13・18・21番染色体のトリソミーを判定する検査がスタートした。検査の対象とされた当事者家族の思いと、現在の動きを報告したい。
ダウン症のある私の娘は、この6月、24才になった。中学校まで普通学級で共に過ごした。高校は市の特別支援学校に行ったが、特に小学校時代の関係は、学校が団地内にあったことも手伝い、今も自然な形で続いている。職場は団地下の私立幼稚園。週に3日の非常勤職員として園児の使うタオルの洗濯などしている。既に6年目、一日も休んだことはない。「仕事帰りに見かけたよ」「バスに乗ってたね」など地域の人から聞くことも多い。ライフワークはアート制作。絵画とさをり織物も彼女の生活の中で大きなウェイトを占めている。大人になることや自立への意欲も強く、週に一度、ヘルパーと部屋のそうじや身の回りのあれこれを一緒に行い、料理のレパートリーも少しずつ増えている。そんな、ダウン症のある人たちは 地元のメンバーにも、全国のダウン症協会のメンバーにもたくさん居る。確かにダウン症の多くは言葉でのコミュニケーションが得意ではない。しかし、少しずつの適切な支えがあればりっぱに成長し、周囲を心豊かにしてくれている。彼ら彼女らが、染色体〝異常〟として出生前検査の対象にされ、人工妊娠中絶される筋合いはどこにもないと私たちの怒りは強まる。盛んに報道される事態を娘に説明すると、「ダメ! 絶対反対!」と暗く厳しい表情を見せる。日本ダウン症協会はホームページに、傷ついている本人たちに向けてメッセージが掲載されている。娘にそれを読み聞かせると、やっと安心し、明るい顔を見せてくれた。
さて、しかし、欧米やアジアの他国と違い、日本は先進国では唯一、検査を一般マススクリーニングにしないという学会の自主規制を持っている。母体血清マーカー検査の時、国が出した「1999年見解」がそれであり、今回の「母体血を用いた出生前遺伝学的検査に関する指針」も、また、検査にあたって厳しい条件を定めた。この「指針」のポインは押さえておきたい。
- ●出生前検査・診断を妊婦の一般検査としてマススクリーニングにしてはいけない
- ●妊婦の誰でもが受けられるものではない
- ●「遺伝カウンセリングを適切に行うための基礎資料作成」(カウンセリングの評価は困難とも言われ、研究目的は不透明)を目的とした臨床研究である
- ●検査前、検査後のカウンセリングが必須、その後の妊婦のケアも必須
- ●「障害はその人の一部であって、それが人の幸・不幸を決めるものではないこと(1999年見解)」の意味を、医師はカウンセリングの中で妊婦に話す必要があること
- ●この検査のことを、医師から妊婦に積極的に告げないという姿勢をとって構わない(これは妊婦が知りたいと思って尋ねているのに対し、答えないということとは違うものである)
- ●検査は定められた条件をクリアし、認定登録された研究機関でのみ行えること
- *審査は日本医学会・「遺伝子・健康・社会」検討委員会の下に設置された「母体血を用いた遺伝学的検査」施設認定・登録部会
3月9日、日本産科婦人科学会から出され、関係5学会がこの「指針」遵守を「共同声明」として発表。また国(厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長)も、3月13日付けで検査実施機関と都道府県・市町村の関係部署に「指針」の周知を通知した。(雇児母発0313号)
現在申請登録され、検査実施しているのは22施設。今後も増える予想。5月9日に、新聞・TVで、検査開始1カ月目の受診者数、検査結果数が発表された。しかし、本来、検査実施機関の認定登録にあたっては、日本医学会(部会)の定めた「実施規則」に従う必要があり、その「報告義務」には、各検査実施機関それぞれ、3カ月毎、一例毎に日本医学会・部会に報告するよう義務付けられている。データが学会からではなくNIPTコンソーシアム(指針が出される以前、自主 的組織として既に作られていた研究チーム)から出されることにも納得がいかない。臨床研究報告などの情報公開は、私たちも望むところだが、こうした「妊婦の多くが検査を求めている」「高齢出産では染色体異常が多い」といった数字の発表は、妊婦の不安をあおることや、検査の宣伝になってしまう。臨床研究結果の情報公開の在り方を、学会とマスコミには問いたい。
検査を受ける受けないも含め、現在、実質的な歯止めの要と言えるのは、妊婦への検査前後のカウンセリングだ。日本ダウン症協会は、カウンセリング体制として、ピアカウンセリングや、ダウン症に関する研修等を提案・要望している。ダウン症のある人の魅力や、〝育て方のコツ〟など、まだまだ理解されているとは思えないからだ。カウンセリングで話されるダウン症についての情報と、実際に生活している彼ら彼女らの姿とは決定的な差がある。カウンセリング体制が整えば、出生前検査はして良いという立場には立っていないが、遺伝子解析技術の出生前検査への臨床応用研究へと舵を切ってしまった現在、一般マススクリーニングにしないためには、学会「指針」が守られること、カウンセリングの〝情報〟の中身が問われること、そして、出生前検査に関わる論議は、広く社会的な視点での障害者施策の検証が同時にされることが必須だと思う。
他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。
障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2013年7月316号目次 |
・巻頭 「新型出生前診断」 検査対象のひとつに指名された当事者家族の立場から 「指針」の遵守と、出生前検査 診断について更なる論議 |
・ようやくスタートラインに立てた──障害者差別解消法制定される── |
・緊急! ついに出た「就学の仕組み改正」に関する文科省パブコメに反撃を! |
・第16回全国交流集会・分科会発題要 |
・シリーズ憲法改悪2 日本国憲法26条「教育に関する権利及び義務等」の能力に応じて をめぐって・ |
・2012・6・7 衆議院憲法審査会の質疑応答 参加出来なかった移動教室‥ |
・はじめての遠足 |
・松山市内の小学校の通常学級で… セコいうそなんかつかないで |
・2013「障害」を普通学級へ・全道春のつどい&就学のための相談会 報告 「同じ場でともに学ぶ」教育 (インクルーシブ教育)のさらなる前進を! |
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