障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2012年8.9月 307号巻頭文

「総合的な判断」では実質的に今と変わらないですヨ

東京都・運営委員 一木玲子

はじめに ~「選択制」導入?~

 7月23日、BSニュースで「中教審、障害児の学校選択可能にすべき」という見出しのニュースが流れました。「障害ある子どもの入学制度見直しへ(7月23日18時24分)中教審=中央教育審議会は、身体などに一定の障害がある子どもは、原則、特別支援学校に入学するとした、現在の制度を見直し、子どもや保護者の意向を尊重して、一般の学校も選択できるようにすべきとした報告書をまとめました。(以下略)」
 実は、この報道は間違っています。中教審報告の就学先決定の部分には「選択」という文字はどこにもありません。そもそも「選択」とは、たとえば学校選択制などにあるように、(定員等で多少の制約があるにしても)本人や保護者の意向に従って学校を選べるというものです。中教審報告で新たに文部科学省(以下、文科省)が提案している就学先決定の仕組みは、「本人・保護者の意向は最大限尊重する」が、「総合的な判断」により「市町村教育委員会が決定」するというものです。そうです。文科省が導入しようとしているしくみには、原則地域の学校・普通学級への就学というインクルーシブ教育の観点どころか、本人・保護者が学校を選択する権利さえないのです。

「原則特別支援学校」から「総合的な判断」へ

 文科省は、2012年7月23日に中教審特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告(共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進)(以下、特特委報告とする)を提出しました。特特委報告では、「原則特別支援学校という現行の就学の仕組みを改正」するとはっきりと記載されています。では、原則を入れかえて「原則普通学級」「原則統合」「原則インクルーシブ教育」になる? いやいや、そうではありません。「総合的判断」なるものが登場しました。「総合的判断」とは、障害の状態、障害の状態に基づく教育的ニーズ、本人・保護者の意見、専門家の意見、学校や地域の状況、その他の事情などや、現行の障害基準(障害名と程度が書かれている特別支援学校に就学する子どもの基準が記載されている表。学校教育法施行令第22条の3)を勘案して、最終的には市町村教育委員会が就学先を決定するというものです。
 ここまで読んで、多くの人はこう思うでしょう。「今までとどう違うの?」と…。
 多くの自治体では5~6月ごろから就学相談が始まり、保護者の希望が聞かれ、いろんなテストや診断評価が行われ、障害基準に該当するかどうか測られ、就学先を市町村教育委員会が決定しています。ある自治体では、就学基準が厳密に守られ、普通学級を希望しても拒否されます。もしかしたら、そのような自治体は、もう少し、普通学級に入りやすくなるかもしれません。ある自治体では、普通学級を希望すると就学できますが、必要な支援や配慮の予算がないという理由で保護者の付き添い等が条件になっています。報告書には、普通学級における合理的配慮等の予算措置について積極的に位置づけられていません。このような自治体は現行とほとんど変わりなく、予算がないという理由で、理不尽な要求が続くと思われます。
 もしかすると現行制度よりは希望すれば普通学級に入りやすくなるかもしれませんが、普通学級に予算がつけられ、本人が必要とする支援のもと、ゆっくりと成長していこうというものでありません。「就学
先決定後も柔軟に就学先を見直していく」。学期ごとに、学年末ごとに、相談という名の「善意の追い出し」が続きます。「乳幼児期からの個別の教育支援計画の作成・活用による支援」、6歳の春をどこで迎えるか。今後も就学先を迷う保護者の悩みは続きますし、その迷いさえも出ないように幼少期から特別な支援を志向するような心性が形作られるかもしれません。いや、今もすでにそうなっているのではないでしょうか。

私たちが求める就学先決定の仕組みと今後の行動提起

 民主党インクルーシブ教育推進議員連盟(以下、議連とする)は、障害の有無に関係なく就学予定者全員に小中学校の就学通知を出すことで、インクルーシブ教育制度に向けた第一歩を踏み出すという議連改正案を提出しましたが、文科省は難色を示しているようです。しかし、今夏にも改正案のパブコメをするとしていた文科省が、その予定を遅らせました。その意図はどうあれ、私たちの運動が文科省にゆさぶりをかけているのは事実です。
 新たな就学の仕組みは来年3月末日までには閣議決定される予定です。ここ数カ月の行動提起としては、国会議員に文科省の改正案は現状と変わらないものであることを知ってもらうこと、そしてパブコメ対策です。就学先決定の仕組みは今回を逃すと次はいつ改定されるかわかりません。全国連の力、結集です。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2012年8.9月307号目次
巻頭「総合的な判断」では実質的に今と変わらないですヨ
第10回「障害児」の高校進学を実現する全国交流集会分科会レポート
 第1分科会
 第3分科会
6・30全国連絡会学習会 5条改正一点突破なるか
就学ホットライン(第1次)を振りかえる〈秋の就学ホットライン(第2次)に向けて〉
 どうか知って下さい!!子供達を守る為に
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インクルーシブ教育(共生教育)について学び・語り合う集い
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