障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2011年3・4月合併 294号巻頭文

厳しい局面を前にして
  ─東日本大震災と障害者基本法改正問題を前にして─

障害児を普通学校へ・全国連絡会 代表  徳田 茂

この三月十一日に東北地方を襲った大地震と大津波は、私達の想像をはるかに超えた凄まじいものでした。地震の大きさもさることながら、その後に続いた津波の激しさには言葉を失ってしまいました。
私達の国は世界の中でも自然に恵まれている国です。この四、五十年の間に私達はずいぶん自然を壊してしまいましたが、それでも私達の周りには多くの自然があり、その自然の恵みによって私達の暮らしが成り立っています。自然の豊かさや優しさに包まれて私達人間は生かされています。しかし自然は優しいばかりではありません。人間の力をはるかに超えた破壊力で人間の暮らしに襲いかかることがあります。今回の東日本大震災は、まさに自然の力の荒々しさと巨大さを見せつけられるできごとでした。

四月下旬の時点で、一万四千人を越える方々が尊い命を失っています。それぞれの方にかけがえのない人生と暮らしがあったことだろうと思うと痛切な思いを禁じ得ません。心よりご冥福をお祈り致します。

また避難所生活を送っている人達が約一三万人います。住む場所を失ったうえに不自由な生活を余儀なくされているみなさんに、遠くからではありますが、励ましと連帯の心を届けたいと思います。みなさんの困難はずいぶん大きく、しかもこれから先長期間にわたると思いますが、私達も精一杯の支援・応援をします。みなさんを孤立させることなく、共に生き合い支え合っていけるように私達一人ひとりが自覚的に生きていきます。

被災地のみなさんが不自由な思いをしている中で、とりわけ高齢者や障害者の生活は厳しいものがあると思われます。障害のある人達に特化した支援も各地で取り組まれていますが、そうした活動にも参加しながら、全国各地から被災地のみなさんに向けてエールを送り続けたいと思います。
今度の大震災のもう一つの大きな衝撃は、東京電力の福島第一原子力発電所の事故でした。「原発の安全神話」がもろくも崩れ去り連日放射性物質の流出の情報が伝えられても、「そら見たことか」と溜飲を下げる思いにはとうていなれません。いったん原発事故が起こると周囲の住民は、推進派の人も反対派の人も同じく被害者になり、暮らしや健康や命の不安の中に放り込まれます。また、事故処理に当たる現場の人達は大きな恐怖と闘いながら作業に従事することになります。発電所内の危険な作業は下請け・孫請け会社の人が担うことになっているようで、原発にからむ差別性も見えています。

地震や津波は天災ですが、原発事故は明らかに人災です。原発という危険なものを作り稼働させてきた人達が、「想定外」という言葉を使ってはならないのです。原発事故は自分達の力を過信し自然の力をあなどって原発を作ってきた人達が引き起こした人災であり、第一義的な責任はその人達にあります。そして、その責任の重さは計り知れません。
その一方で私は、あくなき快適さや便利さや効率を追い求めてやまない、私達一人ひとりの欲望の深さにも目を向ける必要があると考えています。

さて、東日本大震災の影にかくれてすっかり見えにくくなってしまった障害者基本法改正問題ですが、これも忘れてはならない重要な問題です。

昨年暮れから今年にかけて、障害児の教育についてさまざまな動きがありました。障がい者制度改革推進会議の第二次意見は私達と同じ方向を目指すものでしたが、二月十四日に示された政府の改正案は、現行法となんら変わらないものでした。

この数年私達はインクルネット等の人達と共に、「共に学び共に育つインクルーシブ教育制度」の実現に向けて、院内集会の開催や関係議員への要請などの活動を展開してきました。残念ながら、二月の政府案には私達の取り組みの反映はかけらもありませんでした。

二月に政府案が出た後も、最低限でも「共に学ぶことを原則とする」という文言を基本法に入れるべく、民主党や国会議員のみなさんに精いっぱいの働きかけを続けました。

しかし、三月に再度出された改正案も、私達の願いとはずいぶんかけ離れたものでした。「可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ」という文言を読むたび、私は気が遠くなり、嘆息してしまいます。

ただ、新しく加えられた文言は私達の願いとかけ離れていますが、この文言が入ることで現行法よりましな条文になるとも言えます。

ここで私達はどう考え、どう動けば良いのでしょうか。私達は今、とても難しい局面に直面しています。

自分達の願いとかけ離れているが少しでもましなものであれば成立を期すべきだ。不十分な法律ができてしまったら、それが足かせになってしまう恐れがある。どちらの意見にも一理あります。制度改革なんかに関わらないでおこうよ、という立場もあり得ますが、少なくともここまで、全国連としては「共に学び共に育つインクルーシブ教育制度」の実現に向けて取り組んできました。その中でさまざまな人達とのつながりを作ってきました。そのことは大事にしたいと思っています。

さてそこで今度の改正案に対してですが、私自身は、全国連として今回の改正案への批判的見解を示したうえで、少しでもましな法律にすべく今後も議員や関係省庁に働きかけていく道を選択したいと思っています。未曾有の天災と人災、そして障害者基本法改正問題。どれも私達の「共に生きる」歩みが問われています。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

障害児を普通学校へ全国連絡会会報
2011年3・4月294号目次
厳しい局面を前にして―【東日本大震災と障害者基本法改正問題を前にして】
「障害者基本法」の改正をめぐって
東北関東(東日本)大震災障害者救援本部
義援金の振込先
各地の被災地障がい者センター
神奈川における高校入学
もうすぐ1年
パブコメ紹介 その2
戦いは誰のために その3
公立学校、普通学級に通う 学習会では…『障害があるからこそ普通学級がいい』の読み合わせ
発足30周年企画・全国連30年 リレートークを始めます
要倉大三先生のご冥福を祈ります
子どもに「年20ミリシーベルト」を強要する日本政府の非人道的な決定に抗議し、撤回を要求する
東日本大震災 会員安否情報確認の報告
事務局から