障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2021年5月394号巻頭文

教育でも「社会モデル」をスタンダードに

DPI日本会議 常任委員(教育部会長)西尾元秀

DPI日本会議は、DPI(障害者インターナショナル)の日本国内組織として1986年に発足しました。身体、知的、精神、 難病等の障害種別を超え、障害者本人(当事者)が中心となり運営する団体が、90以上加盟する組織です。

障害者権利条約の国内完全実施をめざし、障害者の声を障害者基本法・障害者差別解消法などに反映させるための取り組みを進め、 また国連に提出する「パラレルレポート」の作成も行っています。

DPI日本会議では昨年「DPIビジョン2030中長期行動計画」を策定しました。これは現在取り組んでいる活動のうち10分野 (地域生活、アクセシビリティ、権利擁護等)について、この先10年間の具体的な活動目標を記したものです。
(詳しくは「DPI日本会議」を検索・アクセスしてください。HPの内容も日々更新・充実させています)

先日、全国連絡会の総会に出席させて頂き、挨拶の中でこのビジョン2030の教育分野についてお話させていただきました。 以下は教育の具体目標から抜粋したものです。
目標4.学校教育法施行令5条を改正し、地域の通常学級への就学を原則、学籍一元化を実現する
目標5.学校教育法を改正し、特別支援教育の目的規定を社会モデル的な規定へ改正する
非常に大きな目標ですが、向かうべき課題を見据えながら行動していこうという指標です。

ご存じのように学校教育法施行令5条は2013年9月に改正施行され、その留意事項では「保護者の意見については、可能な限りその 意向を尊重しなければならない」とされました。しかしそれ以降も「障害の程度によって、特別支援学校・学級への就学を強く勧められる」 という声をよく聞きます。

それは「障害の程度が重く、地域の学校では、内容的についてこれない、身の回りのことが自分でできない等の者は、特別な学校に行った 方がよい」という、周辺の人の思い込みや社会の観念が変わっていないから、またこの間その状況を変える実効的な施策が、何ら行われていな いからと思います。

今年、文科省は「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」報告を出しました。実はこの有識者会議に、DPIのメンバーも JDF(日本障害フォーラム)の阿部委員の「代理」として数回出席することができました(出席は副議長の尾上浩二さん)。

傍聴しましたが、この会議に参加するメンバーの多くは、「多様で柔軟な仕組み(学びの場)を用意する、インクルーシブ教育システムを強 く推奨する」方々であり、現状認識から私たちとは全く違う中での意見提起は、かなり厳しい状況でした。報告に反映された意見もありますが、 根底をなす考え方を変更するまでにはいきません。それどころか、この有識者会議の最終盤に近い会議で、それまで報告案に出ていなかったことが、 いきなり出されてきました。(有識者会議報告も検索いただけたらと思います)以下報告5ページより。

各市区町村教育委員会における子どもたち一人一人に応じたきめ細かい支援をより一層充実させるため、障害のある子どもの就学相談や学びの 場の検討等の参考となるよう国が作成している教育支援資料の内容を充実する必要がある。その際、例えば、(いくつかの項目の中から抜粋します)
・必要に応じ、都道府県教育委員会や特別支援学校が市区町村教育委員会等の求めに応じた助言等を行うこと
・特別支援学級において指導を受ける時間が一定の時間に満たない者について通級による指導の対象とすることを検討することもありうること
市町村教委が、県教委等に助言求めるのは、どういう時か?
支援学級籍で原学級保障の場合、通級が義務となるのか?

インクルーシブ教育に逆行する、これらの項目に関しては、パブリックコメントでも、また担当の特別支援教育企画官とお話する機会があった際にも 、強く削除・変更を求めましたが、実現しませんでした。

このように「分ける教育の壁の高さ・厚さ」を改めて痛感したわけですが、こんなことばかり言っていてもどうにもなりません。

私たち障害者の多くの仲間が「学習上・生活上の困難を克服するための教育」ではなく、教育分野でも「社会モデル」がスタンダードとなるよう、 地域の学校・学級への就学が普通になるよう、運動を進めてきました。志半ばにしてお亡くなりになった方々の思いも含めて、全国連さんとも日教組さん とも今まで以上に連携しつつ、DPIとして運動を強めていきたいと考えます。 今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 教育でも「社会モデル」をスタンダードに/●3・19国会請願署名院内集会指定発言 この学校に来てくれて本当に良かった /中学はみんなと一緒でも、高校ではみんなと一緒はなぜいけないのでしょうか/高校入試の全国状況 2021 春/コロナ禍でも(その10) 新型コロナワクチンの問題点/岡山市教委交渉と翌日開催の付き添い撤廃集会の報告/●相談からコーナー これまでの相談から/各地の集会・相談案内/ ご報告/第20回全国交流集会は東京で開催します 発題者を募集します/我田引水的書籍紹介/事務局から /事務局カレンダー