障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2019年11月379号巻頭文

「インクルーシブ教育システム」が進めば 進むほど「分離教育」が進行する

福岡県・世話人    堀   正嗣

2007年に特別支援教育が制度化されてから、分けられる子どもが急増しています。 特別支援学校在籍者は約 10 万8千人(2007年)から約 14 万2千人 (2017年)に 増え、特別支援学級在籍者は 11 万3千人(2007年)から 23 万5千人(2017年) に増えました。少子化で子どもの数は減っているので、 比率にすれば分けられる子ども は 2 倍近くに増えているのではないでしょうか。

このように分離が急激に進行する背景には、文科省が真の意味でのインクルーシブ教 育を推進しようとする姿勢を欠き、「インクルーシブ教育システム」をうたい文句に 、実 際には特別支援教育による分離を推し進めているという根本問題があります。

そもそも特別支援教育は大変問題のある制度です。特別支援教育は、イギリスから四半世紀遅れで、「特別ニーズ教育」へ転換するものと言われました。つまり「特殊教育= 特殊な場で行われる特殊な教育」から、「特別支援教育=あらゆる場で行われる特別な教 育的ニーズに応じた教育」に転換するものだと言われたのです

一時は「固定式の特殊学級がなくなる」というような情報が流れたこともありました。 しかし、結果的に、条件が整っている場合に例外的に普通学校に就学できる 「認定就学者」 が認められるようになっただけで、就学基準を定めた学校教育法施行令 22 条3は維持さ れました。これまで特別支援学校の対象とされていた子どもは、 相変わらずの就学基準 によって分けられることになり、実質的に特殊教育が温存されたのです。その上で、こ れまで特殊教育の対象とされていなかった「発達障害」 (LD、ADHD、高機能自閉症 等)の子どもたちにまで対象が広げられたことから、分けられる子どもの枠が一気に広がるとともに、医学モデル・専門家の権力が強 まりました。

世界に先駆けて特別ニーズ教育への転換を行った英国の1981年教育法は「インテグレーションの原則」を宣言していました。 1975年から始まるアメリカの全障害児教育法も、「できる限 り制約の少ない環境で教育すること」を宣言しました。「分離は 差別」 という認識に立って反隔離・共生を求める人たちの声と、 「ニーズに応じた個別教育」を推し進めたい政府や専門家の思惑 がせめぎ合って 成立したのが「特別ニーズ教育への転換」だった のです。

ところが日本では、文科省は「ニーズに応じた個別教育」とい う所だけに着目して特別支援教育を制度化しました。そのため、教育における能力主義・個人主義の 進行と相まった排除の圧力の 強化と、医学モデル・専門家権力の強化により、分離がどんどん進行するようになったのです。

日本政府は国連障害者権利条約批准に向けた国内法の整備の中 で、「インクルーシブ教育システム」の推進が求められることに なりました。そのため文科省は、 「特別支援教育のあり方に関す る特別委員会」を設置し、「共生社会の形成に向けたインクルー シブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」を 発表しました。そこでは次のように説明されています。

「インクルーシブ教育システムにおいては、同じ場で共に学ぶ ことを追求するとともに、個別の教育的ニーズのある幼児児童生徒に対して、自立と社会参加を見据えて、 その時点で教育的ニー ズに最も的確に応える指導を提供できる、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。小・中学校における通常の学級、通級による指導 、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性の ある『多様な学びの場』を用意しておくことが必要である。」

ここでは、タテマエとしては「同じ場で共に学ぶことを追求す る」と書かれていますが、本音では「特別支援教育はインクルー シブ教育システムだ」と居直っているのです。 そのため、インク ルーシブ教育への転換に不可欠な「分離型の環境からインクルー シブな環境へ資源を移行する」(国連障害者権利委員会一般的意 見第 4 号 70 )ことが全く 行われていないのです。ここでは、イン クルーシブ教育は「特別教育ニーズに応じた個別化教育」を指す言葉になってしまっており、本来の意味と真逆を指すものになっ ている のです。

言葉ではなく哲学・思想こそが重要です。「インクルーシブ教 育システム」の欺瞞を内外に告発しつづけ、共生の教育をもとめ 続けましょう。 国連障害者権利委員会にこのことを訴え、強力な 勧告をもとめましょう。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 頭 「インクルーシブ教育システム」が進めば 進むほど「分離教育」が進行する /第 19 回全国交流集会分科会報告その2 第4分科会 ワークショップ 「こんな学校あっ たらいいな」無い道は歩いて行けない 第5分科会 卒業後「あたりまえに地域の中で」第6分科会 インクルーシブ教育「世界の中の日本」/ 全国交流集会に参加して/ 第 14 回障害児の高校進学を実現する 全国交流集会 in くるめ」のプレ学習会報告 /娘の小学校にエレベーター設置を求めています / インクルーシブ教育を求める川崎裁判第9回報告/●書評 北村小夜著 『画家たちの戦争責任──藤田嗣治の「アッツ島玉砕をとおして考える /●「相談から」コーナー 特別支援学校の体験入学を勧められたのですが /各地の集会・相談案内 /署名運動にご協力をいただいています /事務局から /