障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2016年5月344号巻頭文

「障害児」の高校入試の状況(二〇一六年春)

埼玉県・運営委員  竹迫和子

東京で金井康治さん・佐野雄介さんが初めて受験したのが一九八六年。今年は三十一年目となる。四月一日の障害者差別解消法施行に前後しての高校入試であるが、法の趣旨とは逆の不合理な事態がいくつも起こっている。

許せない定員内不合格

千葉では三浪もさせられている渡邊純さんが、昨年から通知に「定員の遵守」と追加し強化されたにもかかわらず、不合格とされた。授業や行事にも参加し、出身中学校から学校生活について伝えていたにもかかわらず、高校長から「高校生活がイメージできない」という発言があったという。障害のない生徒と同等に学校生活が送れるよう条件整備をしなければならない時代になったはずだが。(千葉のもう二人の受験者は前期選抜で合格した)青森では二年ぶりに二人目の受験があった。特別支援学級から小学六年で普通学級へ移り高校も強く希望したが、代読も行われず不合格とされた。受験の場で〝本人から〟要求が出なかったから読まなかったというのだが、それが配慮と言えるのか?? 北海道ではAさんが二次募集から受験し病院内で面接が行われた。本人が希望する介助者の同席が認められず、追加面接を2回も行っておきながら、本人の意思が確認できないとして不合格とした。「定員内不合格は出さない」という道教委の回答があったにもかかわらずだ。

定員内不合格は障害のあるなしに関係なくあってはならないものだが、これらの不合格の理由は明らかに障害によるものであり、ほんとうに許しがたい。全国からの多くのFAXによる抗議や要請にもかかわらず北海道で定員内不合格を出されたことはほんとうに悔しいが、さまざまな団体が関わっていることを活かして幅広い運動を展開し、合格を勝ち取ってほしい。また、地方で孤立しながらも高校で一緒に学びたいという強い、あたりまえの思いで受験をする人たちは絶えない。このことを全国的な課題としてとらえ、支え合っていけたらと思う。

合理的配慮を活かして合格

一方、愛知では久野藍里さんが志望校に定員オーバーで合格した。久野さんは幼稚園・保育園や小学校で受け入れてもらえず、中学校で普通学級に入れたものの友だちとの関わりで悩んだ。高校こそ一緒にという思いで二年間浪人を続け受験に臨んできた。空間認知の障害があることから図形問題を計算問題に置き換えることが認められた。初めはこの配慮を求めることに躊躇もあったが、障害によりできないことは認め必要な配慮を受けて入試に挑戦をすればいいという気持ちに変わり、診断書と過去の入試結果を提出したとのことである。

東京や大阪の状況

東京では、全日制で四人(定員オーバー)が合格、定時制で一人(定員内)が合格した。本人・保護者の意向をそのまま受け入れ受験時の配慮が実施されてきたが、今回なぜ必要なのかなどしつこく聞かれるという逆行した事態が起こっている。大阪では、自立支援コースは五人が受験し、倍率が高い中で人名が合格した。不合格者のうち一人は併願していた学校へ、人工呼吸器を必要とするもう一人は事業所へ通所することにしたという。またエンパワメントスクールを二人が受験し合格。うち一人は人工呼吸器をつけた生徒である。もう一人が合格した西成高校には自立支援コースもあり、同日に入試が行われるのでどちらを受験するかで悩むという。一般入試で受験し合格した生徒も一人いるなど、さまざまな制度による受験状況がある。

医療的ケアの必要な生徒の受験

広島で呼吸器を付けた生徒がまばたきの解答を認められたものの不合格とされた。現在、義務教育段階で医療的ケアを受けながら普通学級で学んでいる子どもたちもふえてきて、高校でも一緒に学べるための条件整備は重要な課題である。すでに兵庫や大阪など全国に先例があり、差別解消法施行という好機もあり、情報交換をしながら高校選抜を乗り越えたいものである。

「分けない」にこだわって

高校で一緒に学びたいという声はもはや無視することもできず、一方、特別支援教育で受けてきた配慮を高校でも行うよう求める要望もあり、一定の学力のある生徒は受け入れようと障害者枠や通級が導入されようとしている。これまではそんなものがなく余計な悩みをしなくて済んだし、小中学校ではかなわなかったが高校で一緒に学べた人たちも多い。高校における「多様な学びの場」の動きは重大な問題である。障害のある子が障害を克服するために個別指導され、障害のない子が理解教育を受けることでは、一緒に生きる力は育たないことがすでに証明されているではないか。

「教育の機会の確保等に関する法律案」に反対する学習会などに参加する中で、能力主義の学校教育そのものが問われなければならない、子どもが居やすい学校でなければならないと改めて感じた。障害のある子どもたちが小中学校、高校でみんなと一緒に学ぶことも、障害のある子だけに関わる問題ではないこととして、いろいろな立場と繋がりながら取り組んでいかなければならない。

今年の入試状況について『福祉労働』(夏号)にも書かせてもらったが、私に届いている情報の範囲に限られている。今年の八月二十七・二十八日に開催される『「障害児」の高校進学を実現する全国交流集会インおおさか』で広く情報・意見の交換ができたらと思う。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 「障害児」の高校入試の状況(二〇一六年春)/【青森からの高校受験の報告】●緊急の呼びかけ/「個別カルテ」作成義務づけの方針撤回を!/熊本地震被害へのお見舞いと会員の皆様への呼びかけ/熊本地震から1ヶ月/「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案」(座長案)の問題点/多目的トイレは障害者排除の構造/●書評 中川明さんの新著『教育における子どもの人権救済の諸相』を読んで思ったこと、考えたこと/普通学校もあかんねん その17/ボランティアを終えて/運営委員会こぼれ話 その2/●相談からコーナー「特別なことはできません」と言われました/事務局から