障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2023年7月416号巻頭文

第21回全国交流集会広島実行委員会便り

障害児を普通学校へ・全国連絡会 全国交流集会広島実行委員会  事務局長  和田 明

昨年の夏も終わる頃、この全国交流集会を広島で開催することを決め、実行委員会を立ち上げました。しかし、古くからこの障害者の就学運動にかかわってきたメンバーの中 (かく言う私もその一人ですが)には、戸惑いもありました。それは、30年前ならともかく「今の広島に、ここから全国に発信するに足る何かがあるか」という問いに誰も明確 な答えを持ち合わせていなかったからです。

それでも広島で全国交流集会を開催するという機会を得ましたので、広島の教育や運動の変遷と現状をかいつまんでお知らせしておきましょう。

79年養護学校義務化以降の広島の教育と運動の歴史は、大きくは2つの局面に分かたれます。

まずは前半の20年です。70年代後半から80年代前半、反義務化の思想と実践は、広島の主流とはいえず、個々の取り組みに負うていました。ですから、県内各地で普通学校 への就学闘争や障害児学級から普通学級への転籍闘争、障害児学校から普通学校への転学闘争などはあったものの、地教委や学校の差別性の前に軒並み苦戦を強いられていまし た。インクルーシブ教育という言葉はもちろん、後押しする法も制度も条約もない時代です。そうした状況をなんとかしたいという思いから、1985年、「共育・共生をすす める広島県連絡会議」(共生連)が立ち上げられます。ここで広島では初めて「広島青い芝の会」や「全障連広島協議会」などの障害当事者を中心とした運動団体、広教組、広 同教、高教組、高同教などの教職員団体、さらに県内各地で普通学校への就学運動を展開していた親や支援者などが一堂に顔を合わせることとなりました。

この一連の流れには、あらゆる差別を許さないという部落解放運動に学んだという大きな背景と、松本孝信さんや木下孝利さん(いずれも故人)など、障害者差別を糾弾しな がら地域で自立生活運動を展開していた障害者の生き方からの学びももちろんありました。「障害者問題は差別の問題であり、健全者側の問題である」という認識は、当時の運 動の成り立ちからの当然の帰結ですし、今にも生きる私たちの基本的な認識です。

こうした動きを経て、1990年代には高校進学闘争も盛り上がりをみせ、「0点でも高校へ」を掲げて多くの子どもたちが高校へと進みました。90年代半ば、広島県では3 年に渡って公立高校の定員内不合格ゼロということもありました。こうした運動の盛り上がりの結実が、1997年に広島県教育委員会に出させた「障害児教育にかかわる基本的 な考え方」だったろうと思います。そこには、「障害児教育は、障害者が障害者として主体的に生きていく力を身につけることを保障する教育であり、障害者と健常者が共に生き ていく社会の実現をめざす教育である」「幼児児童生徒・保護者による主体的な学校選択を可能にする」など、現在のインクルーシブ教育の理念を先取りする文言が県教育委員会 の方針として謳われています。運動には力があるとつくづく思います。

広島の教育と運動の第2幕は、1998年の広島県への文部省「是正指導」から始まります。前述のように解放運動から学びながらなんとか歩みを進めてきた共育・共生運動 でしたが、そもそもが圧倒的な保守勢力優位の広島県。日の丸・君が代未実施などの懸案事項を文部省の介入によって一気に解決しようとしたのでしょう。学校への壮絶で徹底 した指導と運動団体との切り離し。実際この指導は「功を奏し」、教職員を委縮させ、運動は大きな打撃を受けました。

何年がかりかでようやく実現した高校の定員内不合格ゼロも、それを容認する教育長の一言で吹き飛び、多い年には500名を超える数の定員内不合格者を出す全国一の県に なりました。それまで私たちとの交渉や話し合いの席についてきた広島県教育委員会は、それ以降、一度として運動体や市民団体との話し合いに応じていませんし、要望書提出の 場面にすら担当部署は顔を出しません。

こうした中で、今、私たちがやっているのは、一度は寸断された各地域のネットワークの再構築です。県内におしゃべり会的な会が少しずつでき、それらが横に繋がることも でき始めています。まあ、この程度のことしかできていないとも言えます。「是正指導」から20数年、今も続く広島の現状です。

声高らかに全国に発信できるものはありません。と、言い切ってしまいましょう。でも、細々とではあっても、ほんの小さな規模であっても、集まりをすれば、そこには「普 通に」近くの学校に行きたいと思う親や子どもには確実に出会います。当たり前です。それがまっとうな(自然な)感性だから。時を経ても「ともに」の願いは普遍で共有しう る、ということです。ただ、その願いに蓋(ふた)をしているのが特別支援教育という名の療育・矯正圧力システムです。私たちは身近に、小学校が就学先の選択肢の一つにす らなっていない(ように見える)、よって悩むこともない(ように見える)就学を多く見ていますが、裏返せば、保護者が自分の素直な願いを口にすることすら憚られる(もしか したら自分の方が間違っているのかもしれないと思い込まされる)ほどに「特別支援」呪縛が広島を覆っているということだし、私たちの運動がそれに負けているということで す。

実行委員会でメンバーの共通認識としてあるのは、まさしく「みんな行けるんよ」という集会テーマそのまま、「普通に近くの学校に行きたいと思うのが当たり前なんよ」 「それを言うたらええんよ」「仲間はたくさんおるんよ」という呼びかけを、多くの県民市民、とりわけ障害当事者や親に届けたいという一点です。講演者の藤山さんをはじめ 全国からの発題者、そして参加者の、よどみない一言ひとことが、迷いや葛藤や思い込みの中にいる本人・親・教員の背中をそっと押してくれる、そんな集会になったなら、実 行委員会としてこの上ない喜びです。

ぜひ周りの多くの方を誘って本集会に参加してみてください。大したもてなしはできませんが、「熱」だけはお届けできると確信しています。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

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