障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2023年5月414号巻頭文

その〝 支援 〟は〝 分離のための支援 〟である
~検討会議 3・13報告を読んで~

東京都・会員 尾上裕亮(障害連)

1.報告書から見えてくるもの
通常の学級に在籍する障害のある児童生徒への支援の在り方に関する検討会議は、2022年6月から全9回にわたり審議し、3月13日(月)に報告書を公表した。 この検討会議の最中、国連の障害者権利委員会は9月、日本に対し勧告を出した。権利委員会の勧告では、「医療に基づくアセスメントによって、障害のある子ど もを分離する特別教育が永続している」ことを懸念し、現行制度は分離特別教育であり、それを廃止するよう求めている(総括所見、段落 51 (a)、52 (a))。

しかし、検討会議の報告書は勧告について、次のように述べ、制度変更はしないと改めて示した。
「勧告の趣旨を踏まえ、障害のある子供と障害のない子供が可能な限り同じ場で共に学ぶための環境の整備をはじめ、よりインクルーシブな社会の実現のため、 関連施策等の一層の充実を図ることが求められている」
医療に基づくアセスメントを是とし、それを利用し子どもを分け、多様な場で支援する。この報告書は、この仕組みの推進を目指すものである。

2.報告書の概要
上記を念頭にいれて内容を紹介したい。報告書は、近年、普通学級での特別支援教育を必要とする子どもが増加しているとし、その理由を次の点に整理する。
・2007年の教育的ニーズに応じた適切な指導及び必要な支援を行う「特別支援教育」の開始
・2013年の就学先決定の仕組みの見直し(障害の状態に加え、教育的ニーズ、学校や地域の状況、 本人及び保護者や専門家の意見等を総合的に勘案して個別に 判断・決定する仕組み)
・特別支援学校への就学相当である一部の子ども(学校教育法施行令第22条の3に規定する障害程度)を、市町村教育委員会の判断で普通学校に就学させる仕組みの導入
・2016年の不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮提供の法的義務化(2021改正)
報告書に先立ち、文部科学省は2022年12月、「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査」の結果を公表した。これによると、通常の学級 に在籍し、学習面又は行動面で著しい困難を示すとされた児童生徒数の割合は、小中学校で、推定値8・8%、高等学校で推定値2・2%となっている(教員による回答)。 「これだけの子どもが何ら支援を受けずにいる」と強調したいのだろう。 そのうえで同報告書は、普通学校に以下のように提言している。
■校内委員会の充実。校長のリーダーシップの下、特別な教育的支援を必要とする児童生徒の実態を適切に把握し、適切な指導や必要な支援を組織的に行う
■通級による指導は他校通級ではなく、自校通級や巡回指導に
■通級による指導を担当する教師等の専門性の向上を図ること
■高等学校における通級による指導の実施体制を充実させること
■特別支援学校のセンター的機能を充実。特別支援学校がもつ専門的な知見や経験等を普通学校への指導助言に
■よりインクルーシブで多様な教育的ニーズに柔軟に対応するため、特別支援学校を含めた2校以上の学校を一体的に運営するインクルーシブな学校運営モデルを創設すること

気になる点を2点挙げる
(1)校内委員会の充実
この仕組みは、特別支援教育の対象者やそう思われる子どもについて学校全体で検討し、支援方法を決めるものである。報告書では校内委員会の検討事項として例示的に、 学級全体に対してわかりやすい授業の工夫、ICTを含む合理的配慮の提供、特別支援教育支援員の配置などをあげる。しかし現在多くの校内委員会で見受けられるという 「学びの場の検討」は、否定されていないのである。つまり校内委員会にかけられ、特別支援学級や特別支援学校に措置されることもある。校内委員会の充実を述べるならば 、分離の場への検討を防ぐ仕掛けが必要である。この仕掛けなく推進するのは、国連の要請に応じていないことと等しい。

(2)インクルーシブな学校運営モデル
この提言には強い違和感を覚える。提言は、障害によって子どもを分けない教育をしようという意図ではないからだ。報告書では「特別支援学校を含む複数校が一体的に取り 組む特別支援教育体制の構築」と提案し、次のように説明する。
「現在の多様な学びの場を維持しつつ、特別支援学校が有する特別支援教育に関する専門的な知見や経験及び施設等のリソースを活かし、自治体等の判断により、特別支援 学校と小中高等学校のいずれかを一体的に運営するインクルーシブな学校運営モデルを創設する取組を進めることが必要と考えられる」

つまり、特別支援学校の専門的な知見や経験及び施設を普通学校に借りやすくするために、「一体化」を打ち出した。残念ながら、ここでは、重度重複障害のある子どもを 普通学級に受け入れること(障害者権利条約がいうインクルーシブ教育)は想定していない。そもそも「一体化」とは、2つ以上の仕組みを前提にして、各仕組みの連携を強化 するものである。このモデル事業の実施・検討では、特別支援学校、特別支援学級の仕組みを無くすどころか、強化される。私はこう解釈する。

報告が必要だという〝支援〟は、まさしく〝分離のための支援〟に他ならない。

2023年3月20日

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