障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2023年1月412号巻頭文

インクルーシブ教育実現のために文科省交渉を行います。全国連絡会が求める地域の学校を共に学ぶ場にするためには、厚い壁が立ちはだかっています。昨年9月に私たちが手にした障害者権利委員会からの総括所見に基づいて、インクルーシブ教育をインクルーシブ教育システムとしてさらに多様な場に子どもたちを分ける特別支援教育を進める文科省の姿勢を糺していきます。
*要請書の案文についてご意見を1月25日までに事務局へお寄せください。(事務局)

文部科学大臣 永岡桂子殿     2023年1月 日
総括所見に基づきインクルーシブ教育の実現を求める要請書(案)

  

障害児を普通学校へ・全国連絡会  代表 長谷川律子

私たち障害児を普通学校へ・全国連絡会は、インクルーシブ教育の実現に向けて地域の普通学級で障害のある子も障害のない子も共に学ぶ教育を求めて40年以上活動をしてきました。貴省とも20数年にわたり話し合いを続けております。

昨年8月に国連障害者権利委員会による日本審査が行われました。私たちは事前にパラレルレポートを提出し、現地に代表団を送り、プライベートブリーフィング等を通じて
・日本政府が障害者権利条約を正しく理解すること
・障害のある子どもの小・中の通常学級への就学を拒否しないこと
・知的障害児を排除している高校、大学の選抜制度を改めること
・障害者権利条約に規定するインクルーシブ教育の定義を、日本の全ての教育者が正しく理解するための研修をすること
・研修は医学モデルではなく人権モデルとすること
について具体例を出して訴えてきました。

9月9日に出された総括所見には、
・インクルーシブ教育の意味を正しく理解すること
・分離特別教育を廃止してインクルーシブ教育にするための国の行動計画をたてること
・普通学校が障害児の就学を拒否できないことを明確にする『就学拒否禁止』の条項および政策をたてること
・インクルーシブ教育を確実にするために合理的配慮を保障すること
・障害の人権モデルについての意識を育てること
等を強く要請するとありました。

新聞でも日本の特別支援教育の中止を要請と報じられましたが、すぐに永岡大臣が中止を考えていないと発言したとも報じられました。私たちは総括所見の勧告は遵守されるべきだと考えこれに抗議もしています。

私たちはこの総括所見を大切に考え、総括所見に基づきインクルーシブ教育が実現されることを求めて以下のことを要請します。

1.「総括所見52(b)すべての障害のある子どものための普通学校へのアクセシビリティを保障し、普通学校が障害児の就学を拒否できないことを明確にする『就学拒否禁止(non-rejection)』の条項および政策を立てること」に基づき、本人・保護者の意向が尊重されずに小・中の通常学級への就学を拒否されている事例を解消するための手立てを講じてください。
神奈川県相模原市在住の人工呼吸器を使う佐野涼将さんは、兄弟と同じ小学校への入学を希望しましたが、教育委員会は2年生になったら転校させるとの約束をしたうえで涼将さんは特別支援学校に入学することになりました。1年生では週2日小学校に交流及び共同学習に通いましたが、1年生の三学期、約束は反故にされ2年生からの転校は実現されず、すでに4年生になっています。
このような状況を早急に改善し、佐野涼将さんが一日も早く普通学級で学ぶことができるために、国としての対応を求めます。

2.「総括所見52(c)障害のある子どもの個別の教育上の必要を満たし、インクルーシブ教育を確実にするために合理的配慮を保障すること」に基づき、普通学級に在籍する児童・生徒が共に学べるための合理的配慮を提供することを周知徹底してください。
私たちのもとには、合理的配慮が提供されず、保護者が付き添いを強要されたり、プールや校外学習などに参加できなかったり、エレベーターが無いために地域の学校に就学・進学できない等の相談が多く寄せられています。障害のある子が地域の学校で共に学ぶための合理的配慮の提供を周知徹底させてください。

3.総括所見52(a)「すべての障害のある子どもに対して、あらゆる教育段階で合理的配慮および必要とする個別の支援を提供することを保障すること」に基づき、後期中等教育である高校教育制度の原点を踏まえて、定員内不合格者をなくし、希望する子どもの全員を入学させるようにしてください。
高校進学率が97%(特別支援学校高等部を除いて)となり、ほとんどの子どもが進学しているにもかかわらず、高校に入れない障害のある子どもたちが多くいます。受験時の配慮が認められても不合格にされることもあります。
また、定員内であるにも関わらず、知的な障害やコミュニケーションの困難で点数が取れないこと、設備や人的な条件が整っていないことなどから不合格とされていることもあります。このことは障害による差別です。障害のあるなしにかかわらず、高校で学ぶことを希望する子ども、必要とする子どもを全員入学させるようにしてください。

4.総括所見52(d)「普通教育を担う教員およびインクルーシブ教育に関わる教員以外のスタッフへの研修を確実に行い、障害の人権モデルについての意識を育てること」に基づき、障害を人権モデルとする認識にたって教育施策を進めてください。
私たちのもとには、普通学級に就学しても、付き添いを強要されたり、教員の無理解な言動により親子が傷つけられたという相談が多く寄せられています。このため、障害児が普通学級から排除されることが増えています。
学校や教育関係者はインクルーシブ教育に対する認識が浅く、未だに「医学モデル」による指導が行われています。障害を人権モデルとする認識を周知徹底させてください。
以上

限られた時間の中ではありますが、回答をもとに建設的な話し合いをさせていただきたいと思っています。聴覚に障害がある者、内容理解に時間がかかる者もおりますので、2月中に文書回答をお願いいたします。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 永岡桂子文部科学省大臣あてに抗議文を出しました。/文科省への抗議です 各地から届いた抗議文を紹介します その1 障害児を普通学級へ美作地区連絡会 その2 神奈川・「障害児」の高校入学を実現する会/運動の成果をあの手この手でしつこく迫り広めていきましょう/速報12月6日 文科省への要請文手交・記者会見・院内集会/ジュネーブ報告集会の報告 その2/定員内不合格全国調査の報告/●「相談から」コーナー この1年の相談から相変わらず学校現場の「分離攻撃」が続いています/「障害ある子を分離、人権侵害」大阪の親子が人権救済を申し立て/心に刻みたいもの~共生連集会から全国交流集会へ~/事務局から