障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2022年9月10月409号巻頭文

普通学級に多様性を

神奈川県・会員 小学校教員  大和俊広

相模原障害者施設殺傷事件から6年が経ちました。

事件が起こってすぐ考えたことが2つあり、ボクは学級通信で、問題提起しました。
1つは、学齢期から、容疑者の周りに当たり前に障害者がいて、学校で生活を共にし、関係を取り結ぶ経験をしていたら、事件は起きただろうか? ということ。
2つ目は、学校は「生産性」や「有用性」で命の価値を判断してはならないと言いつつ、学校の能力主義的「評価」が彼の思想に影響を与えたのではないか? ということ。

教員は、毎日の教育活動の中で、子どもたちを「できるようにさせる」「わかるようにさせる」「力をつける」ということに、結構、躍起になっていると思います。成長や発達を前提としたそうした営みは、「能力主義」と紙一重です。

例えば、勉強が苦手な子を「取り出し(人間に使う言葉か!)授業」で、別教室で学ばせたり、「障害」を理由に、学ぶ場所を分けて「特別支援」したりすることがあります。 もしかしたら、教室でみんなと学ぶより「学力」はつくのかもしれません。しかし、一人だけ「取り出し」、「分けて」学ばせることは、子ども同士の人間関係に「悪い影響を与えない」と言い切れるでしょうか? 「いじめ」は周りの人間の「あなたのいけないところを教えてあげる」という「愛」や「正義」から始まる場合があるのですが、「あなたのために分ける」という、このやり方も能力主義的な学校の「愛」と言えます。

「青い芝の会」の横田弘さん(故人)も、著書の中で「われらは、愛と正義を否定する」と宣言していますが、多数者の「愛」や「正義」は時に少数者への「差別」に変わるのです。 黒人差別にしても、ユダヤ人差別にしても、ハンセン病患者差別にしても、障害者差別にしても、「分ける」ということが、「差別」の原因になることは、歴史が証明しています。 学校や社会の能力主義という「構造的な暴力」が「差別」を生み出した。それが、相模原の事件で、直感的にボクが感じたことです。

地域の公立小学校には、さまざまな子たちが通います。勉強や運動が得意な子もいれば、苦手な子もいる。外国につながる子もいれば、発達障害がある子もいます。家庭環境もそれぞれ異なります。 社会にはさまざまな人がいるのだから、学校でもさまざまな子たちと共に生きるのは当たり前のことのはずです。 しかし、事件から6年経っても、障害のある子もない子も共に学ぶインクルーシブ教育は「当たり前」になっていません。

■環境調整
共に生きるためには、子どもを取り巻く環境を調整することが欠かせません。
多動傾向があり、授業中に立ち歩いてしまう子もいます。全否定して一律に対応すれば、その子の居場所は無くなってしまうので、周りとの関係や、本人の様子も見ながら、授業の内容や方法も含めて相対的に対応するようにしてきました。
然したる理由もなく、友だちに手を出してしまう子もいます。粘り強い対応が必要ですが、子どもも一緒に過ごしていれば「そういう子なんだ」と思って気にしなくなったり、大事に至らない関わり方をしたりする子も出てくるものです。子ども同士の関係性をつくるには、どんなに手間がかかっても、共に過ごす時間を重ねていくしかないのです。
しかし、こうした対応がしにくくなっているとも感じています。教員の多忙化も相まって、関係性を作る前に、本人の課題として児童支援の専任教員のほかスクールカウンセラーといった専門職に任される傾向が強まっているのです。これでは、担任と子どもたちが試行錯誤しながら「共に生きる」ための調整をすることが難しくなります。
特別支援学校や特別支援学級に通う子どもは増え続け、不登校(登校拒否)の子向けの公立学校やフリースクールも増えています。学びの場の多様化は進んでも、普通学級から多様性がどんどん失われていっているのだと思います。

■生活の場
子どもたちは小さな頃から評価にさらされています。教員も評価のまなざしを持って子どもたちに向き合います。そうした能力主義の下では「できる―できない」で人の存在を値踏みする差別意識も生まれかねません。事件を引き起こした土壌は今も再生産されているのです。
社会に根付く能力主義にあらがうのは容易ではないのですが、ボクはそれを少しでも緩めたいと思っています。子どもは、大人になるための「準備の時間」を生きているのではなく「今」を、「子どもの本番」を生きているのです。学校は子どもたちの「生活の場」です。「能力開発工場」ではありません。
生活の場、学校では「楽しい」「安心」といった価値がもっと強調されるべきです。「できる―できない」にとらわれず、子どもたち同士が助け合いながら、楽しく過ごせることを前提としなければなりません。それが、インクルーシブな学校であり、子どもだけでなく、教員や親たちにとってもハッピー?な学校なのだと思います。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

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