障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2021年6月395号巻頭文

改正バリアフリー法と学校バリアフリー
~インクルーシブ教育の推進を

DPI日本会議副議長  尾上浩二

今年4月から公立小中学校のバリアフリー化を義務づける法律が施行された。地域の学校のバリアフリー化とともにインクルーシブ教育が大きく前進する機会となることを 期待したい。だが、DPIに寄せられる相談からは、学校現場の意識・対応の遅れが目立つ。こうした現状を変えていくためにもあらためて、学校バリアフリーの意義や課題に ついて紹介したい。

■校門の前で締め出されてきたバリアフリー

もう30年も前になるが、全国で初となった大阪府福祉のまちづくり条例制定(1992年)運動に関わった。初めて鉄道駅舎のバリアフリー化が義務づけられることになり、 その後の国のバリアフリー法制定にもつながっていった。だが、条例制定時点では、特別支援学校はバリアフリー義務づけとなったのに、地域の学校は努力義務に留まった。私自 身、養護学校から地域の中学校に進む際に「階段の手すりなど設備は求めないこと」を入学の条件とされ、音楽教室の移動などで苦労した経験があるので、大変くやしかったこと を思い出す。その後、阪神淡路大震災でバリアだらけの避難所が問題になり、地域の学校も対象にする改正が行なわれたのは制定から10年後のことだった。国レベルでは地域の学 校のバリアフリーは努力義務のまま、四半世紀が過ぎていった。

この間、駅にエレベーターが設置されるなどまちのバリアフリー化は進んできたのに、学校は置いてきぼりだった。バリアフリーは校門の前で締め出されてきたのだ。

■2020年法改正と文科省報告書・通知文

長年の要望の結果、2020年のバリアフリー法改正で公立の小中学校のバリアフリー化が義務づけられることになった。これ自体は大きな前進だが、既存の建物が多くを占 める学校では自動的にバリアフリー化が進むわけではない。各地の教育委員会が計画を立てて、エレベーターの整備等を進めていくことが求められる。

昨年12月に文科省の検討会「報告書」がまとめられ、学校バリアフリーのガイドラインを発表するとともに、バリアフリー化に関する2つの通知文を各教育委員会や学校関係 者宛に出している。

「報告書」はバリアフリーの専門家である髙橋儀平さんが座長だったこともあり、これまでの文科省の姿勢からは大きく踏み込んだ内容になっているので、ぜひ、ご一読いた だきたい。
※参考→ https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/059/mext_00001.html

国は、2025年度までを期限として、以下のような整備目標を掲げている。
・車椅子トイレの整備→避難所指定となっている全ての学校(95%)
・スロープ等による段差解消→全ての学校
・エレベーター整備→要配慮児童生徒等が在籍する全ての学校(40%)

この目標では既存の学校も含めて対象になっていること、障害のある児童生徒や教員のいる全ての学校でエレベーター整備をすることになっていることに注目したい。特に 、エレベーター整備に関して「現時点で在籍していなくても、配慮が必要な児童生徒の入学等の見込みがある場合は、柔軟かつ適切に対応していくことが重要」と文科省の資料 にあり、入学前からエレベーター整備を働きかけていくのに活用したい。

■学校バリアフリーをインクルーシブ教育推進の起爆剤に

以上のように国は学校のバリアフリー化について積極的な方針を打ち出してきているが、地元校区と別の学校への就学通知が出されたり、階段昇降機の導入で済ませたりと現 場レベルの対応は旧態然としている。全ての教育委員会で既存の学校も含めたバリアフリー整備計画をつくり、こうした対応を無くしていきたい。

長年にわたって校門の前でバリアフリーを締め出してきた歴史から、大きくアップデートしていくことが求められる。例えば、エレベーターがあってもふだん鍵をかけるといっ た、現在の駅などでは考えられない運用がまかり通っている。整備から運用まで、障害者の参画の下、当事者チェックのもとバリアフリー計画をつくっていくことが重要だ。さら に、高校や私学などのバリアフリー化も大きなテーマである。

これらの課題解決に向けDPIとしても各地で改正バリアフリー法を活かした動きをつくっていきたい。また、「障害の有無に関わらず全ての子どもに地域の学校への就学通知 を送る就学決定の仕組み」への変更など、制度面も含めた障壁除去(バリアフリー)を進めていくことで、インクルーシブ教育の推進につなげていきたい。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 /改正バリアフリー法と学校バリアフリー~インクルーシブ教育の推進を/不届きな改憲手続法修正案採決/●新一年生からの投稿 由真の小学校入学 /小学一年生になって/春から高校生☆青春☆/コロナ禍でも(その11)コロナ禍の大学での授業/川崎就学訴訟控訴審の5月25日進行協議の報告 /足りないのは特別支援学校の教室ではなく、普通学級における合理的配慮だ!「特別支援学校設置基準」へのパブコメを出そう /●相談からコーナー 水泳授業で帽子に印をつけなければいけないでしょうか /各地の集会・相談案内/「受検」か「受験」か /事務局から /事務局カレンダー