障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2020年5月384号巻頭文

何のための2年間だったのか?

光菅伸治・悦子(会員・川崎裁判原告)

和希の同世代のお友達の中で一緒に過ごしたい、学校に行きたい、という願いをかな えてあげたい。特別ではなく当たり前の願いは、川崎市教育委員会、神奈川県教育委会 だけではなく、司法の場でも退けられ、私たちの願いは全て棄却された。和希にとって、 子どもにとって本当に大切な時期の2年間は戻ってこない。

和希は幼稚園に通う2年間の中で、お友達と関わることの楽しさ、嬉しさを知り、い ろいろなことに興味を示し、自分の意思を伝えたいという気持ちを持ち始め、 集団生活 にも慣れていった。和希にとって地域の中で同世代の子どもたちと一緒に過ごし、同じ 空気を吸い同じ空の下同じ学びの場で皆と共に成長していくことが、 いずれ社会に出て いくことに必要なことだと思った。学校は教科の勉強だけが全てではなく、人とのつな がり、思いやり、優しさ、協調性、いろんな感情を持ちなが ら成長していくことが大切 だと思った。本人も子ども同士の関わりを望んでいる。障害があってもなくても同世代 の子どもたちと一緒に過ごし、お互いを尊重しあい 人とのつながりを大切に生きていけ る環境を作ってあげたかった。

川崎市教育委員会、神奈川県教育委員会は裁判の中で、初めから特別支援学校だと決 めていた。親とのコミュニケーションも取れていないと、すべて見た目だけで判断した。

初めから特別支援学校に決めていたのに、私たちには「地域の学校へ行けないことはな い」とずっと言い続け、最終的には 2 月 28 日に「地域の学校へは行かせません」 と言って きたにもかかわらず、裁判官は合理的配慮に時間を要したためだと判決を出した。意味が 分からない。「和希にとって、人とのコミュニケーションが取れるように、 丁寧な個別指導 が教育的ニーズだ」と言った。和希と関わろうともせず、一度も話しかけたことすらない人たちの言い分が認められた。同世代の子どもたちと一緒に過ごし てきたことで、ここまで成長が見られたこと、本人の意思があると いうことを主張してきたが、裁判官は容認できないと判決を出した。

川崎市教育委員会の担当だった稲葉は、ある記者さんに「障害 のある人は、一つ許すと次から次へといろんなことを要求してく るから面倒だと言った」と聞いた。 それが受け入れない本当の理 由だ。川崎市の福田市長も記者会見で「合理的配慮とは過度な負 担にならないものだ」と言った。神奈川県教育長は「権利は生徒 にある。 選択肢を増やし、一人一人に合った教育環境を作りたい」 と発言している。ならばなぜ、今回の裁判で私たちの後押しをし ないのか?

私たちは、地域の中の子どもの一人として、地域の学校に行き たい。願いはそれだけだった。

川崎市教育委員会、神奈川県教育委員会、裁判官は、インクルー シブ教育を全く理解していない。自分たちの都合に良いようにし か解釈していない。私たちの判決の 2日前に、やまゆり園事件の 判決も下され、植松被告は死刑判決を受けた。あっという間に判 決だけが下され、何故このような事件が起こってしまったのか追 及されず に終わってしまった感じだった。子どもの頃から障害が あってもなくても一緒に過ごし、お互いに自然に関わることが差 別をなくす、分けることで差別が生まれるという ことを理解して もらうのは難しいことなのだろうか?

裁判官はなぜこんな判決内容に2年の月日を要したのだろうか?   私たちの主張を一切認めず、川崎市教育委員会、神奈川県教育委員会の主張そのものが判決内容だった。

和希は 3 年生になる。これ以上待たせられない。無駄な時間は 過ごさせられない。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。私たち は引っ越しすることを決めた。 18 年間住んだ家を、和希が「ただ いま」と言って安心して帰ってくる自分の家を離れることになっ た。学童で仲良く遊んだ大好きな友達や和希をみんなと同じよう に地域の子どもとして受け入れてくれた優しいスタッフの方たち とも離れることになる。失うものは大きい。

それでも得たものはある。

真のインクルーシブを求めて、私たちに寄り添ってくれた弁護 団の先生方。和希を、私たちを理解し、どうしたらいいか一緒に 考え、裁判所にもいつも駆けつけ応援 し支えてくださったたくさ んの皆様方。私たちにとってどれだけ心強かったか。本当に感謝 しております。ありがとうございます。

現在、和希は世田谷区立の小学校の 3 年 1 組に在籍しています。 コロナの影響でまだ登校はしていませんが、先日、教科書を受け 取りに行きました。

裁判については、既に、お知らせしていますように控訴してい ます。川崎市や神奈川県の違法行為を許すことは、決してできま せん。彼らの行ったことが違法であり、 障害を理由にした差別で あると認められるまで闘い続けたいと思います。

大変あつかましいお願いになりますが、 どうか私たちの決断を ご理解くださり、引き続き応援をしてくだいますよう、よろしく お願いいたします。

 

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