障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2020年1月381号巻頭文

乳幼児健診のデータを就学時健診などに引き継ぐ仕組み作りが進んでいます

東京都・会員   原田富弘(就学時健診を考える府中市民の会)

昨年5月、母子保健法が改正され、市町村は転居前の市町村に乳幼児健診の情報提供 を求めることが可能になりました (第 19 条2)。またマイナンバー法の情報連携事務を列 挙した別表に母子の保健指導、新生児訪問、健康診査などを追加し 、情報提供ネットワー クシステムによって親の同意なく他市町村に情報提供を可能にしました。今年6月頃の 利用開始に向けて 、市町村のシステムを改修中です。

文部科学省は養護学校義務化以降、就学先判定に乳幼児健診等の情報を利用しようとしてきました。2009年には特別支援教 育の推進に関する調査研究協力者会議が、特別支援教育実施のためには早期からの教育相談・支援と就学指導の充実が最も重要で 優 先的に取り組むべき課題として関係機関との情報共有を求めました。2013年の学校 教育法施行令の就学先決定手続きの改 正後には、一人一人の教育的ニーズに応じた就学 先を決定するための「早期からの教育相談・支援体制構築事業」を始めました 。教育再 生実行会議は2016年5月の第九次提言で、「個別カルテ」を作成し、早期発見・支援 のため乳幼児健診の結果を就 学時健診や就学中の健診に引き継ぎ活用する仕組みの構築を求めました。それが現実化します。

早期発見・支援体制の整備によって、親が特別支援教育を希望するようになり、特別 支援学級・学校への就学者が増加し続け ています。分離別学体制の中で「支援を充実」「情 報共有」すると、ますます児童生徒の振り分けが進みます。

 

●乳幼児健診と学校健診のデータ連携の検討内容

厚生労働省は2018年4月に「データヘルス時代の母子保健情報の利活用に関する検討会」を設置し、乳幼児期・学童期の健 診情報の利活用を推進 するため、電子的に記録する様式の標準化や健診情報の連携を検 討しました。2018年7月の中間報告 書では、現在は様式がバ ラバラで紙で記録されていることも多い乳幼児健診情報の「標準 的な電子的記録様式」を定めて、マイ ナンバーで管理し利活用可 能にするとともに、その中で「最低限電子化すべき情報」として、 出生児の身長体重・在胎週数など の基本情報、健診受診日・身体 測定結果や異常の有無・要観察・要治療などの所見の有無等を情 報提供ネットワークシステムで 提供することにしました。

ただ当初目的とした就学時健診など学校健診との連携は、乳幼 児健診と目的・観点が違うことやマイナンバー法で学校がまだ マ イナンバーの利用機関になっていないなどの課題があり、乳幼児 健診と学校保健情報の一元的管理に向けて引き続き検討を求 めて います。

この報告を受け母子保健法が改正されるとともに、学校健診に ついては昨年 10 月 30 日に文部科学省が「データ時代におけ る学校 健康診断情報の利活用検討会」を設置し、学校健診情報の電子化 や利活用について2021年3月までを検討期間として います。 第一回検討会では、成績処理・出欠管理・指導要録等や学校事務 を統合した「統合型校務支援システム」で健康管理機 能の整備を 進めるとともに、今年6月までに他の健診との互換性に配慮した 電子的記録様式の標準化や乳幼児健診情報との接続 による効果的 な利活用の方策を検討するとしています。

●健康情報の共有がもたらすプライバシー侵害

これらは国のデータヘルス改革に沿ったもので、医療健康情報 を利活用した新たな医療・ヘルスケア産業の育成や、マイナポ ー タルという個人サイトで健診情報を提供して健康づくりに「行動 変容」させたり、企業が従業員の健診情報や医療費をスコア リン グして健康づくりに活用することが目的です。「マイナンバーカー ドの健康保険証利用」も、従来どおり健康保険証でも受 診が可能 であるにもかかわらず国が普及に躍起になっているのは、それが データヘルスの基礎になるからです。

しかしその結果、知られたくない疾病情報が行政等で共有され たり、大量の健康情報が漏えいするなどプライバシー侵害の危 険 が高まります。2018年4月にはマイナンバーカードを使って 母子保健と学校の情報連携を進めていた前橋市で、全児童生 徒 2万5千人余の氏名・住所・電話番号・国籍・クラブ活動・アレ ルギー・既往症・口座などの情報が不正アクセスで漏えいす る事 件が起きています。今後、漏えい情報にマイナンバーがつくと、 他の漏えい情報との照合・加工が容易になり悪用されやす くなります。

振り分けの強化とプライバシー侵害につながる医療健診情報の 連携はやめさせなければいけません。

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