障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2019年8月9月377号巻頭文

仲間や友達という足場を失っていった時40

戸恒香苗(子供問題研究会)

40・50代の「ひきこもって」いたとされる方が、それぞれ被害者、加害者になった事件から2カ月も経たない7月 18日、京都のアニメ制作会社に火が放たれ、34人の方たちが亡くなる事件が起きました。中学の同級生が語る容疑者は「目立たず、学校へ来ない子」 で、その頃からすでに彼が社会に関わる足場を失い始めていたのではないかと感じました。

川崎・登戸の殺傷事件で、そして今回の京都の放火事件で亡くなった方々の、また残 された遺族の方々の持って行き場のない無念さ、あの場所で出会ってしまった理不尽さ は、胸ふさぐ思いがあります。京都の放火事件で、アニメーションの世界をけん引して いた人たちと、その世界を横目にうつうつとしていたであろう加害者の見ていた世界と の落差に言葉を失くしてしまいます。卑劣な加害者は非難されなければならない。けれど、 被害者と加害者があの場、あの時に悲劇的に出会ってしまうその理不尽さに、解ききれ ない背景が横たわっているのではないかと気になっています。

2つの事件の引きこもっていた方たちは、何十年も家族とも会話がない生活だったと 言います。こんな悲劇的な結末を迎えるしかなかったのかと、もっと手前で誰かに助け を求め、親子に風を入れられなかったのかと。何度かチャンスがあったはずです。たし かに、家族が保健所に相談に行くと支援相談機関はいくつか教えてくれますが、保健師 が訪問してくれることはなく、おせっかいな動きはしないようです。

最近、ある関西の「40・50代ひきこもり家族支援組織」を主催する山田孝明さんの書 いた本(『親の死体と生きる若者たち』 青林堂)を読みました。親の死を通報すること ができず親の遺体と暮らす人、親の遺体の横で餓死する人の話がTVや新聞でぽつぽつと報道されます。 いわゆる「8050」問題です。決してそれ以 上の話題にはならず、人々の意識から消されていきます。ちょっ と考えれば、誰もが追いつめられればありうることであり、自分 であったかもしれないのです。「そんなことありえない」、「うち でなくてよかった」と大半の人たちは自分と関係ないと切り離し ていきます。けれど、山田さんの活動は、ひきこもっている青年 たちに何年も根気よく寄り添い続けます。彼は「この事態は20年 前から予想され、近年マスコミで対策の急務が叫ばれているが、 現場を知れば知るほど正直手遅れだ」と断じています。そして「こ の事態は10年どころではなく、30年、50年と起こり続け、深く深 く人々の心の荒廃が進むだろう」とも言っています。しかし、手 遅れだが、公的機関がチームを組んで「社会的な善意の介入」を 行うしかないと言います。純粋な熱意だけでやってきた民間の活 動だけでは、もう限界にきているのです。

2000年以降、私たちの周りでは「発達障害」という診断名 が浸透し、行政、専門家、学校が中心になり、この20年間、「発 達障害」児・者への支援が組まれてきました。「発達障害」の診断・ 支援をうまく利用し、力にしてきた人たちがいる一方、そこから 外れる人がいることも否定できません。幼稚園・保育園の頃から、 多動、集団に馴染まない、言葉が遅いからと専門家から診断され、 別の場に分けられた子供たちは相当数います。この細かく子ども たちを分けていく状況は依然と続いています。

コミュニケーションが苦手とされた若者たちが支援の名の元に 取りだされ、分けられ、友達や仲間という足場を失っていく結果に行きついてしまったのではないかと疑っています。「不登校」、 「いじめ」は増え続け、どの子にとっても学校が安心していられ る場ではなくなっています。学校は変わらず、ある意味個人に責 任を押し付け続けています。今回事件を起こした青年たちにとっ て学校が安心していられる場だったら、悲惨な事件の様相が違っ たのではないかと思うのは単純でしょうか。「発達障害」が流行 り始めた頃、ここに行きつくとは想像だにしませんでした。

毎月1度、2軒の家庭訪問をしています。コンビニ労働で疲れ 果て、5年間部屋の布団に寝起きしている20代の青年です。もう 一人は、高校を出てスーパーのお肉屋さんに就職し、怒られてか ら仕事に出られなくなった40代の青年です。どの家も近所付き合 いはなく、彼らも友人との付き合いを断っています。外からの出 入りが細っています。人に迷惑をかけるわけでもなくひっそりと 暮らす彼らは、息をひそめています。彼らはそうするしかなかっ たのです。さて、私が今できることは彼らには迷惑かもしれませ んが、会いに行くことしかなく、ある意味「ひきこもる」ことも あたりまえだと言いたいし、「あなたに関心を持つおせっかいな 他人がいる」ことが伝わればと思っています。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

●巻頭 仲間や友達という足場を失っていった時‥/第19回全国交流集会・分科会レポート その2 第4分科会 ワークショップ「こんな学校あったらいいな」 第5分科会 卒業後「あたりまえに地域の中で」 第6分科会 インクルーシブ教育 「入学差別、 川崎訴訟で問われていること」/勝負は今年を含め3年間~制度改革に迫るために 障害者権利条約の総括所見を広めよう~/インクルーシブ教育を求める 川崎裁判 第7回報告/「ひろむ君裁判」終結。ご注目、ご支援に感謝いたします!/子どもたちに勧められる検査って何?/●相談からコーナー 学校から付き添ってくださいと言われたとき、どう答えたらよいでしょう。/重度障害者の議員誕生! すごいことが!/各地の集会・ 相談案内/事務局から/事務局カレンダー/