障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2018年8月367号巻頭文

管理と分離のさらなる強化に位置づいた就学時健康診断

~新旧「就学時の健康診断マニュアル」を読み比べる~~

東京都・運営委員 名谷和子

15年ぶりに日本学校保健会が文科省の委託を受けて、就健のマニュアルを改訂しました。4月になって注文をすると、「現在は、一般への販売はしていない」とのことでした。きっと、日本中の小学校、関係諸機関に配布されているのだろう、その数はいったい何冊なんだと思いつつ、連休明けにやっと入手することができました。新旧のマニュアルを読み比べ、何が変わっていて、何が変わっていないのかを見ていきました。


施行令改正が反映されている具体的な記述は無し

まえがきには、「『学校保健安全法施行規則の一部を改正する省令(平成26年文部科学省令第21号)』の公布により、健康診断票に係る規定、健康診断の内容や方法等が改正されたこと等を考慮し、この度、『就学時の健康診断マニュアル』を改訂しました。」とあります。就学先決定には保護者の意向を尊重することが記述されている『学校教育法施行令の一部改正(平成 25年文科初第655号)』は資料として文末に載っていますが、本文では何も触れていません。少しは考慮しているのかと思われる個所が趣旨の中にありました。「適正な就学を図ることは、就学事務を行う市町村の教育委員会の任務であるべきであり、また一方、就学義務を負う保護者の義務でなければならないと考えられる。」という部分が、「適切な就学を図ることは、就学事務を行う市町村の教育委員会の任務である。」となっています。適正が適切になり、さすがに保護者の義務の記載はカットされています。また、スクリーニングすることは変わっていませんが、「就学指導等に結びつける」が「就学支援等に結びつける」と変わっていることだけです。

3月の文科省交渉ではマニュアルの改訂について「担当部署は違うが、これまで医学的モデルという言われ方をしていたのを社会的モデルということに基づいて就学先決定などの考え方を示している。今の時代に合ったように改正していくと聞いている」という回答があったので、「文科省さんから社会モデルという言葉が出るとは思いませんでした。期待しています」と返したのですが、その期待は見事に裏切られました。


増えたのは発達障害把握のための方法の記述

大きく書き加えられているのは、「発達障害の発見」の記述です。発達障害の疑いをスクリーニングするための参考として3つ紹介されています。①文科省がつくった「教育支援資料」②以前、文科省がクラスにいる発達障害児の割合を調査するために用いた「通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育支援を必要とする児童生徒に関する調査」③それと、Strengths And Difficulties Questionnaire(SDQ)なるものです。「SDQとは、Goodman 氏によって開発された、子どもの多動・不注意、情緒面、行為面、仲間関係、向社会性という行動をスクリーニングするための質問紙法」だそうです。就健前に保護者にSDQを記入して もらい、それを分析して面接に活用するもので、HPからダウロードできると紹介されています。発達障害を見つけるために文科省が採用した75項目のチェックリストが一人歩きしていったように、今度は「SDQ」が学校現場に入ってくるのではないでしょうか。


改訂は、大きな動きの中の一つ

会員の内木糸美さんが所属している「愛知県重度障害者団体連絡協議会・教育部会」に県教委が説明をした際、文科省が出した「就学時の健康診断マニュアルの改訂について」の通知が紹介されました。そこには、「教育再生実行会議第9次提言」と総務省が出した「発達障害者支援に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」を踏まえてマニュアルを改訂したと書かれています。

発達障害者支援法施行10年にあたり、2017年1月に総務省は「発達障害者支援に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」を出しています。そこには要約すると、「発達障害の発見の遅れは、適切な支援につながらず、結果として、不登校や暴力行為などの二次障害につながる恐れがあるのに、就健では発見の取り組みがなされていない。だから、早期発見の重要性を周知徹底し、具体的な取り組み方法を提示しなさい。行動観察のための標準的なチェックリストを提示しないさい」とあります。文科省は、子どもの権利条約の勧告はずっと無視し続けているのに、この勧告にはすぐに対応し、マニュアルを改訂したのです。そして、9次提言でいっている「一億総活躍社会」実現のために就健を管理と分離のさらなる強化に位置づけたのです

先月号で紹介されているように、就健はマイナンバー制度ともつながっていて、マニュアルの改訂は大きな動きの中の一つなのです。9月の学習会で、その点を深く掘り下げていきましょう。


他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

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