障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2018年7月366号巻頭文

就学時健診に乳幼児健診情報の活用の動き

就学時健診を考える府中市民の会 原田富弘

3月26日の読売新聞が夕刊一面で「幼少時健診一元管理 履歴電子化 マイナンバー活用 案 厚労省議論開始へ」と報じました。乳幼児健診の情報を就学時健診などに効率よく引 き継ぐ仕組みがないため、厚労省の有識者会議でマイナンバー制度を利用して自治体や 学校などに分散した健康データを連結する検討を始めるという記事です。

この有識者会議が4月25日から、「データヘルス時代の母子保健情報の利活用に関する 検討会」として始まりました。厚労省子ども家庭局のサイト掲載資料によれば、6月8 日まで4回開催され中間まとめ骨子案が出されています。2020年からの運用開始を 目指して、まず各自治体で標準化されていない乳幼児健診や妊婦検診のデータの中から、 「コンピュータ管理する標準的な記録様式」を検討しています。

その中でさらにどの市町村でも最低限電子的に管理し情報連携すべき項目として、健 診の「判定所見」をあげています。「異常所見」のあった子をいつでも、(関係機関は) どこでも、いつまでも容易にチェック可能にしようとしています。今後、文科省や総務 省と情報の管理や活用について検討することになっています。


就学先判定に乳幼児健診情報を活用

79年養護学校義務化以降、国は就学指導に乳幼児健診情報を活用することを求めてき ました。義務化に向けて78年6月に行政管理庁は、「心身障害児の障害に即した的確な就 学指導を行うためには、当該児の就学前の健康診査記録などの諸資料を市町村教育委員 会が十分把握し、活用することが望ましい」と勧告しました。

しかし一部の自治体を除き、就学判定と乳幼児健診情報の連携は進んでいません。今回厚労省がおこなった全国自治体アンケート調査では、学校保健データと乳幼児健診データを連結しているのはわずか27自治体(回答の2・2%)で、多くの自治体は今後も連結を検討する予定がないと回答しています。

この現状に文科省は、12年7月中教審報告や13年9月学校教育法施行令改正により、従来の医学的な障害程度を根拠とした就学先判定から「教育委員会が障害の状態等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組み」に変更したことを受けて、関係部 局との連携や乳幼児検診の結果を共有する早期からの教育相談・支援体制構築を本格化しました。

16年5月には教育再生実行会議第九次提言が、発達障害を早期に発見し適切な支援につなげるため、乳幼児健診の結果を就健や就学中の健診に引き継ぎ活用することや、乳幼児期から高等学校段階まで個別の支援情報に関する資料(個別カルテ(仮称))を作成し進級、進学、就労の際に引き継ぐ仕組みを整えることを求めました。

これらを受けて文科省は学習指導要領を、「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」の作成活用を強く求めるものに改訂しました。日本学校保健会発行の「就学時の健康診断マニュアル」も平成29年度に改訂され、知的障害や発達障害の発見のため保健・福祉部局と連携する体制の構築や、保護者の理解を得た上で乳幼児健診の情報を就健に活用、就健で個別の教育支援計画や個別指導計画、就学支援シートの情報の活用などを追加しています。

このような体制整備により、特別支援学校や特別支援学級への就学者数は増加を続けています。別学教育システムをそのままに「切れ目のない支援」を充実すると、ますます分離が進行します。


マイナンバー制度活用の将来は?

マイナンバー制度とは、さまざまな機関ごとに管理している個人情報を、個人を特定識別する番号を付けることで情報を共有する制度です。個人を生涯追跡可能にし、行政の目から個人情報を丸見えにするための社会基盤をつくることが目的です。番号法で情報連携の対象事務になると、本人同意不要で提供が義務づけられます。

現在、マイナンバー制度やマイナンバーカードを利用するデータヘルスという医療情報の連携活用が国の成長戦略として進められ、乳幼児健診と学校健診の一元管理もその一環です。府中就健の会では全国連絡会会報2016年2月号や12月号で報告したように、教育委員会と毎年「就学判定のために保育園や幼稚園、保健所から保護者の同意なしに情報収集しない」ことなどを確認してきましたが、マイナンバー制度の進行でどうなっていくか心配しています。

※データヘルス 医療保険者は、被保険者の医療情報・特定健診情報のデータを分析し、データに基づき実施する保健事業

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

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