障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2018年2月3月362号巻頭文

2018年度の運動方針(案)

障害児を普通学校へ・全国連絡会 運営委員会

2017年度活動総括と2018年度活動方針

活動の状況

最近「障害のある人もない人も共に生きる社会を」というポスターをあちこちで見かけます。 障害者権利条約から始まり障害者差別解消法に至る動きのなかで、「共に生きる」ことがクロー ズアップされているのだと、実感します。
ところがです。権利条約や解消法で同様に謳われている「共に学ぶ」は一向に聞こえてこな いのです。聞こえてくるのは、「教室が足りない支援学校」や「増えている特別支援対象児」と いうものばかりです。子どもの数が減っているのに、なぜ特別支援の必要な子どもが増えてい るのでしょう。「共に生きる社会」を掲げているのに、なぜ「共に学ぶ」を言わないのでしょう。
「学校は完全なブラック職場だ」とマスコミがセンセーショナルに取り上げ、教職員の多忙・ 過労も指摘されています。疲弊しているのは、教職員だけではありません。新学習指導要領の 実施で、子どもたちは、授業時数の増加だけでなく、学習内容や方法まで規制され、「できる のがあたりまえ」「できるまで頑張る」と追いたてられています。
普通学級での生き辛さ、学び辛さが、子どもたちを、通級教室、特別支援学級、特別支援学 校へと分け続けています。学校における「余裕の無さ」をそのままにして、共に学ぶ教育にし ないで間違ったやり方で行われているのが「特別支援教育」ではないでしょうか。私たちが問 わなくてはならないのは、「共に学ぶ」ことに取り組まない、この国の教育の在り方です。
こうした中でこの一年、私たちの共生共学を求める運動を振り返ると、残念ながら、後退な いしは停滞していると思わされてしまいます。
相模原障害者施設殺傷事件(やまゆり園事件)が一昨年起こったこと、そのことへの政治的、 社会的な反応、及び以降の実態がまさしくそう思わせます。私たちは、このような事件が起き たことは、少なくとも、共生共学が実体的にないことにその真因があると考えています。それ に対して、政府は、事件を単なる個人的、特異的なことと片付け、障害があろうがなかろうが共に生き合うという本質について眼をそらさせ、逆に隔離分断により事件が起きることを押さえ込もうとしていす。社会の実態も、すでに事件を考えようとさえしていないように思えます。
なぜ、このよう状況になっているのでしょう。一つには、政治や社会が、「共に生きる」という言葉とは裏腹に、一層分断する動きをあらわにして、むしろ、「別に生きろ」というばかりのあり方を進め、共に生きることを阻もうとしているからです。もう一つは、そうした「共に生きる」を阻む力に抗う運動の力が分散化、弱体化しているからだと思います。

全国連の運動もその中にあると言えます。昨年問うた個別カルテの問題、もとより分けることを進める就学指導のありようや保護者の付き添い強制の問題、そして就学時健診を見直すという問題など、「教育再生実行会議」の提言通りの教育政策が進められています。共に学ぶことを求めて行く場においても、早期から分断され、当事者である若い保護者たちの運動への参加も少なくなっています。
しかし、こうした中ではありますが、全国各地で運動は続いています。学校は生活の場だからこそ振り分けに抗して普通学級への就学が希望されます。保護者の付き添い問題にも進展がみられます。やまゆり園事件は途切れることなく地域で共に取り組まれ多方面で語られています。会報を通じて、現状の問題を指摘し、取り組みを呼びかけてきました。また、各地での取り組みや課題も伝えて来ました。
これからも粘り強く続けていくことしかありません。特別支援教育の情報でなく、インクルーシブ教育の情報を届け広めていきましょう。 「共に生きる社会は、共に学ぶ教室から」「共生社会は共育共学から」を訴えてきましょう。
以下に2017年の活動を振り返り、次の2018年に目指す活動を記します。

相談・支援の活動について

相談、それを通じての支援は会の最も基本的な活動として取り組んできました。寄せられるメールや電話での相談は担当を中心にして応じて来ました。会報での相談コーナーも大きな役割を果たしていると思います。
昨年までは年2回期日を設定しての全国一斉障害児の普通学級就学ホットラインを行って来ましたが、今年から「全国連ホットライン」として、年間通して事務局が受け付け、各地域で相談を受けるという体制をつくり動き出しました。各地の世話人を中心にご協力をいただいています。合わせて、新たに世話人になった方々も含めて、世話人等メーリングリストの整備活用も進めてきました。まだまだ十分な活用となってはいませんが、早期に行政の相談で分けられていく状況のなかで、私たちの相談としての役割を高めて行けたらと考えています。
行政が早期に振り分けをすすめている状況に対しては、就学時期ではなく、生まれてから就学前までに共に学ぶことについて知ってもらうことが必要ではないかと考えました。就学時健診の時ではもう遅い、もっと早くから普通学級での学びの情報を伝えなくてはなりません。そこで就学前パンフレットの作成に取り組みました。これからの会の活動に活用していけると思います。


①生まれてから就学前までに働きかけが必要です。そのためにと作ったパンフレットを活用し、就学前への取り組みを進めます。
②相談を電話だけでなくネットを通じて日常的に受け付け、それを各地の世話人等に繋げる方法として全国連ホットラインの体制がスタートしています。世話人等メーリングリストも合わせて活かしながら、相談体制をより充実させ運動につなげます。


インクルーシブ教育を求める運動

インクルーシブ教育を求める運動としての隔年で開催している「障害児を普通学校へ・全国連絡会全国交流集会」を昨年は8月に熊本で開催しました。前年に起きた地震で被災した方々もおられる中で、現地の実行委員会は被災地視察のオプショナルツアーまでも企画実施実してくれました。380人もが参加し、地域で共に生きることの大切さを新たに思わされる集会となりました。
地域の学校へという全国連の活動から、その先の課題として「高校へ」そして「学校を卒業してから」という課題が取り組まれています。高校集会については、プレ集会が11月に愛知・名古屋で開催されました。「卒後の集会」も11月に三重・津でひらかれました。共に学ぶことを原点とした運動であり、イン クルーシブ教育をいっそう指し示すことだと思います。
「原則統合」の教育への制度改革を求めていくことや、現状の施行令改正や差別解消法といった制度改革を実質化していく取り組み、地域での就学・付き添い強制・合理的配慮等の問題に対しては、日常的な相談活動を中心に対応してきました。広範な仲間との取り組みとして関わっていった付き添い問題ややまゆり園事件問題へは常に意識して取り組みました。合理的配慮がなされなければならないこと、共に学ぶことが共に生きることだと訴えて来ました。
個別カルテの問題等も継続的に考えて来ました。就学時健診の見直しがなされるということで具体的な要求を整理し、2018年この総会前に文科省交渉で問い、改善を求めて行きます。
不登校問題、付き添い問題、やまゆり園事件に関わる問題などには、会員の皆さんもそれぞれの地域で各種の集会等に取り組み、会報でも案内してきました。こうした取り組みが一体として全国連の運動なのだと思います。

①第13回「障害児」の高校進学を実現する全国交流集会が愛知で開催されます。現地実行委員の皆さんと協力して集会の成功、運動の進展に努力します。
②「インクルーシブ教育」、「原則統合」の教育への制度改革を求めていくことや改正施行令や差別解消法の内容を実質化していくように取り組みます。
③地域での就学や付き添い強制や合理的配慮等の問題に対して、状況に応じて集会や学習会、交渉等を計画して運動を進めます。
④共生社会の実現に向けて問題意識を共有する集会等にもできる限り参加して共に考えていきます。
⑤共生社会の根幹に係わる憲法改悪への動きにも目を向け続けていきます。


運動を広める活動

会報10号の発行は予定通りに出来ました。会報を通じての全国の仲間をつないでいく役割は果たすことが出来ているのではと思っています。
ホームページの強化を考えて来ましたが、今年は大きく進みました。事務局内での担当が新たな取り組みをし、記事更新、新たな企画など、より活用、見てもらえる内容になって来ました。もっと広めて行けるように内容を充実させていきたいと考えています。
ネットワークは、ホームページだけでなく、運営委員会メーリングリスト、世話人等メーリングリストという二つのMLをより活用できるように少しずつですが進めています。運動につながる若い世代へのコンタクトとして対応が求められています。障害をめぐるもっと広範な運動とのつながりも必要です。その ようなネットワーク作りもHPを通して広めています。
今年の大きな取り組みとして就学前に働きかけるパンフレットの作成を進めてきました。今後は広めて活用し、就学前の取り組みが進めていけたらと思います。

①会報の編集や内容に、会員の声、特に現場や当事者の意見がもっと反映出来るように考えます。形式、発行体制も工夫し、より読みやすくしていきます。
②ネットの情報の早さを活かせるようなホームページの運用をさらに進めます。また、運営委員、世話人の体制をより強化し、情報交流がより出来るようにメーリングリストの運用を行います。
③新しく作成した就学前に働きかけるパンフレットや、これまで発信してきている情報や書籍なども続けて広めながら運動を進めていきます。


活動する組織の運営

 年10号の会報の発行、それと連動しての編集委員会、事務局会、運営委員会の開催があります。年に1回の総会、世話人会も行って来ています。一年間の中で計画的に取り組まれている集会や取り組み、その時々に必要に応じての取り組みもあります。今年度は、会員名簿を作成し会員にお届けました。
私たちの力の強化のためには、若い層が中心になるような運動になることが必須だと思います。
組織は会員の会費やカンパによって支えられています。現在、会員700人弱を保ち、財政的には何とかやっていける状態ですが、継続的に働きかけが必要です。

① 新会員を増やすとともに、会費納入の働きかけをしていきます。
②ネットの活用をより進めます。
③事務局としての運営を確実に行っていけるように、役員の分担体制や協議の方法を考えて工夫します。特に若い会員層の運営への参加を働きかけていきます。
④事務所の機能を整えて、出来るだけ事務作業や会議がしやすくし、分担しながらの事務局がスムースに行くように考えます。
⑤当番体制を工夫して出来るだけ事務所が活性化して運営されるようにします。
⑥会員名簿についてはあり方を含め検討をします。


他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

巻頭 2018年度の運動方針(案)2017年度活動総括と2018年度活動方針 /高校生活、楽しんでます!/普通級への入学を決断するまで/●連載(その1)就学前パンフレットを作らなくては/運営委員会こぼれ話 その17 /●相談からコーナー 自立するとはどういうことですか?/前号の「津久井やまゆり園再生基本構想について」の補足/各地の集会案内/事務局から/事務局カレンダー