障害児を普通学校へ全国連絡会会報 2018年1月361号巻頭文

文部科学大臣 林 芳正様

共に学ぶ共に育つ教育に関する要請書

2018年1月13日
障害児を普通学校へ・全国連絡会   代表  長谷川 律子

文科省に対して交渉(話し合い)を要請しました。2013年に施行令が改正されても、 2016年に障害者差別解消法が施行されても、障害のある親子が普通学級に入ると き、そして入ってからも、「合理的配慮」に欠ける事例が全国各地から寄せられています。 またやまゆり園の凄惨な事件があっても、文科省は「安全管理体制の検証」を学校関係 者にお願いするにとどまり、教育のあり方への検証にまで至っていません。そこでこれ らの文科省の対応への疑問を投げかけ議論し、方向転換を求めていきたいと思います。


この度は、お忙しい中、話し合いの時間をつくっていただき、感謝申し上げます。1981年に発足した「障害児を普通学校へ・全国連絡会」は、共に生きる社会は共に学ぶ教室から生まれるという考えのもと、どの子も分け隔てられることなく、地域の普通学級において共に学ぶ教育を求めて活動をしていす。

2006年に「障害者権利条約」が国連で採択され、その批准にむけ「障がい者制度改革推進委員会」が設置され、共生社会の実現に向けて、動き出しました。2011年には、障害者基本法が改正され「全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生社会を実現する」とし、障害者を福祉の対象でなく権利の主体として位置づけました。そして障害を社会モデルで考え、社会的障壁を除去する方向に動き始めました。教育においては「可能な限り障害者である児童生徒が障害者でない児童生徒と共に教育を受けられるよう配慮をしつつ、教育の内容および方法の充実を図る等必要な施策を講じなければならない」と規定しました。2013年の「障害者差別解消法」では、障害を理由に不当な差別的取り扱いを禁止し、合理的配慮を行うことを義務付けました。

こうしたなか2013年に学校教育法施行令が改正され、「就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組み」の「見直し」がされました。私たちは、特 別支援学校への就学者が認定就学者と規定されたことにより、どの子も原則地域の学校に就学するものと考えます。また「就学指導委員会」は「教育支援委員会」とし、「本人・保護者の意見を最大限尊重する」ことが盛り込まれました。

 ところが、文科省は、「共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システムの理念が重要であり、特別支援教育を着実に進めていく」として、「小・中学校における通常の学級、通級による指導、特別支援学級、特別支援学校といった、連続性のある『多様な学びの場』を用意しておくことが必要」であるとしています。これは、障害者基本法に反するものと考えます。ここ数年、児童生徒数が減少しているのに、特別支援学級・学校は増え続けています。特別支援学校が足りないとも報道され、就学手続きの見直しは、言葉だけで終わっています。

 私達のところには、適切な教育をと特別支援教育を勧められたり、合理的配慮ができないから普通学級では受け入れられないといったりした相談が後を絶ちません。差別解消法では、環境面での配慮はもち ろんのこと人的面での配慮があって当然だと思います。また、やまゆり園で起きた事件は、対等な立場として、日常的に付きあいがなく、人間同士の共感が育たないところで生じたのではないでしょうか。共 生社会の実現のためには学校教育こそインクルーシブな環境でなければならないと考えます。

 私たちは、インクルーシブ教育が推進されるよう、以下の点について、要請いたします。

1. 改正された学校教育法施行令を受け、就学時健診で振り分けることなく、就学者全員を対象に地域の学校への就学通知をだしてください。現在でも区市町村の中には就学通知と就学時健診のお知らせを同時に出している例があります。

2. 就学の手続きにおいて保護者の意見聴取が義務づけられていますが、普通学級就学を希望している保護者と本人に普通学級へ就学するための情報提供がされていません。普通学級を希望するための情報も就学相談において提供するよう働きかけてください。

3. 普通学級における合理的配慮がされていないために、本人及び保護者に負担が強いられています。必要な合理的配慮がなされるようにしてください。

4. 普通学級では「障害児はいじめられる」と就学相談で言われることがあります。このような考え方が、やまゆり園事件につながっていたのではないでしょうか。文科省の考えをお聞かせください。

5.学校教育関係者にインクルーシブ教育に関する認識が薄く、今も医学モデルによる指導が行われているので、障害児が普通学級から排除されることが増えています。学校関係者や教育委員会に対して、障害者権利条約・障害者基本法・障害者差別解消法の趣旨を徹底させてください。

他、記事は以下の通りです。お読みになりたい方は、この機会にぜひご入会下さい。

巻頭 共に学ぶ共に育つ教育に関する要望書/地域の中学校で仲間とともに学んでいます /「地域で暮らす」は「地域で共に育ち、学ぶ」ことから/●相模原障害者施設殺傷事件を問い続ける 津久井やまゆり園再生基本構想について/●シリーズ憲法改悪16 2018年は改憲発議阻止の正念場/●報告 あいちプレ集会に参加して/●報告 障害のある人の卒後を考える全国集会/●相談からコーナー ピストルの音に恐怖を感じる子について/運営委員会こぼれ話 その16/各地の集会案内/事務局から/事務局カレンダー